クリニックにおける2023年“春”昇給の傾向とは?【独自調査】
解説:日本経営ウィル税理士法人
宮前尭弘
コロナ禍前(2019年)の昇給幅と2023年の比較
昇給幅を維持 | 84% (298件) | ※前年調査結果(84%)と同率 |
常勤・非常勤ともに昇給幅を上げる | 9% (32件) | ※前年調査結果(6%)より3%↑増 |
常勤のみ昇給幅を上げる | 2% (7件) | ※前年調査結果(2%)と同率 |
非常勤のみ昇給幅を上げる | 2% (7件) | ※前年調査結果(1%)より1%↑増 |
昇給・非常勤ともに昇給幅を下げる | 2% (7件) | ※前年調査結果(5%)より3%↓減 |
常勤のみ昇給幅を下げる | 0% (1件) | ※前年調査結果(1%)より1%↓減 |
非常勤のみ昇給幅を下げる | 1% (2件) | ※前年調査結果(1%)と同率 |
※n=354件、2019年の昇給額と2023年の昇給予定額にて比較
上記のように判断した理由(一部抜粋)
「例年通りの昇給幅を維持」が多数を占めるが、賃上げ情勢や個別評価を意識するクリニックが増加
昇給幅を維持する:
- コロナ禍前に既に時給を大きく引き上げているため、今年は例年通りの昇給とする。
- 今まで全員一律だったが、今年は個人ごとに変化を付ける。ただし全体としての昇給幅は維持する。
- 離職離れはコストになる。元の時給が高く高齢の従業員も多いが、昇給幅は変えない。
- 従業員の働き具合で決める。ある程度は一律で上げつつ、年次を重ねて役割が増える人は増やしたり、対応できる仕事が少ない人は増やさなかったりなど、緩急を付ける。
- コロナ発熱外来の増収が一段落して、今年2月3月と減収になっているため、昇給幅は例年通りに戻す。
- スタッフが減り、院長が看護師の業務も行い、妻が受付をしている。スタッフに頼らない仕組みを始めたため、昇給はしない。
- 第三者承継して2年目になるが、当面の昇給幅は今までと変えない方針。
- スタッフが勤続10年程度だが、まだ頭打ちとはしない。今まで通りの昇給を実施する。
- 調整手当で結果的に昇給させるようにする。ただ来年以降、調整手当は変動させる予定である。
- コロナでかなり忙しかったが急にコロナ患者が減ったため、通常通りの昇給に戻す。
- 全員、年収130万円以内の制限があるため、あまり上げられない。
- 前年の昇給幅は例年より下げたが、今年はコロナが明けるため通常通りに戻す。
- 昇給幅は例年通りとしているが、利益が増えれば決算賞与という形で支給している。
昇給幅を上げる:
- 最近の世間の賃上げ情勢を受け昇給する。
- コロナ禍でしばらく上げられていなかったことを従業員に指摘され、上げることになった。
- 物価高に対応して昇給幅を上げる。
- スタッフを募集しているが、採用が進まず現人員の頑張りで増収しているので、昇給幅を上げる。
- 人材派遣や求人を利用したが、良い人材の確保に難儀しており、時給アップの決断となった。
- 人を確保する為、同地域の他医院よりも良い条件を提示している。
- 診療日数もスタッフ数も減らしたが、残ったスタッフの業務量が現状増えているため増額する。
昇給幅を下げる:
- お産数が減少しており、人件費の抑制のため昇給幅を下げる。
今後の賞与係数に関して
賞与係数を変動させない |
92% (326件) |
賞与係数を増やす |
2%(7件) |
賞与係数を減らす |
3%(10件) |
どちらとも言えない | 3%(11件) |
※n=354件
今年の昇給をどう考えたのか
当社顧客の昇給アンケート回答から見える傾向 「2019年より増額」は計 13%
- 354件の医科・歯科クリニックに2023年春の昇給をどのように設定したかアンケートを行ったところ、全体の約84%を占める回答は「コロナ禍前(2019年)通りの昇給幅を維持する見込」であり、その殆どが前年の春季昇給幅の調査においても「例年通りの昇給幅で昇給する」と回答していたクリニックでした。
- 一方で、約13%のクリニックでは「コロナ禍前(2019年)よりも昇給幅を上げる」との回答でした。前年の調査において、2019年より増額すると回答したクリニックは計9%でしたが、今回の調査では4%増加した形となります。他方、「コロナ禍前(2019年)よりも昇給幅を下げる」と回答したのは全体の約3%のクリニックであり、こちらは前年において7%のクリニックが同様の回答をしており、4%減少しました。
- 一部のクリニックでは、昇給幅を増やす代わりに、賞与係数を下げるとの回答がありましたが、全体では3%に留まり、全体の92%は賞与係数は変動させない、2%は賞与係数を増やす予定との回答でした。
昇給幅の決定の際に「最も」参考にするもの
最低賃金(差額を一定に保つ) |
47% (153件) |
求人広告情報(都道府県,市区町村レベル) |
16% ( 53件) |
求人広告情報(競合医院) |
4% ( 15件) |
経営数値(一定期間における点数,患者数などの前年比較) | 26% ( 83件) |
その他 | 7% ( 23件) |
※n=327件
調査を終えて
アフターコロナのクリニック経営を見据えて
今回の昇給調査では、コロナ禍の終息が近づく一方で、物価高や売り手優勢市場といった外的環境も影響し、今後の賞与の見込みも含め、人件費増を余儀なくされるクリニックが多い結果となりました。
最低賃金情報を元に昇給幅決定が行われるケースが多くありますが、今後は、新たな人材の確保とともに、既存の人材の流出に備えるため、周辺地域、あるいは競合医院の求人広告情報も把握しておくことの重要性が高まると推測されます。また、人件費は経費の中でも特に、収入に対する比重が大きくなりがちな項目であるため、自院の経営数値において、どれだけの人件費を許容できるかの検討も重要となります。「収入制限(例:130万円の壁)」「有給休暇」「残業時間管理」など、事業所として把握しなければならない情報も年々増えてきました。
専門家と共に、将来を見据えた施策を検討されたい方は、お気軽にお問合せください。
参考ページ
解説:医療事業部 宮前尭弘
本稿はご回答時点における一般的な内容を分かりやすく解説したものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。
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