クリニックの交際費は売上や利益に繋がるのか?【クリニック経営データ分析 Vol.01】
交際費は売上や利益に繋がるのか?
筆者:日本経営ウィル税理士法人
渡邊 宙
イントロダクション
交際費とは、得意先や仕入先など事業に関係のある方々に対しての接待、供応、慰安、贈答などのために支出する費用です。
一般的には、税務・会計上、交際費を支出することによって事業に何らかのプラスの影響を与えることが期待されることから、経費として認められます。実際に、交際費の支出によって事業活動にどのような影響を及ぼすのでしょうか。弊社顧客である1000件以上の診療所でも、コロナ禍で影響を受けた先も多くいらっしゃいます。今回は、財務的な観点から、交際費と売上や利益との関連性について見ていきます。これからの経営にお役立ていただければ幸いです。
交際費と売上高の関係性
上記図1をご覧ください。令和3年度の個人クリニックの交際費と売上高のプロット図です。相関係数は一般的に0.3以上で相関関係があると認められると言われるところ、交際費と売上高の相関係数は0.310となり、やや相関関係があると判断できます。やはり何らかの関係はありそうです。続いて一歩踏み込んで粗利益(医業売上高から、薬品や検査費などの医業原価を差し引いた金額)との関係性を見てみます。
交際費と粗利益の関係性
(図2:相関係数0.332、n=365)
上記図2をご覧ください。令和3年度の個人クリニックの交際費と粗利益のプロット図になります。こちらの相関係数は0.332となり、先ほどの売上よりも相関関係があるということが分かりました。これはおそらく比較対象を粗利益とすることで院内処方、院外処方のクリニックの売上のバラツキが補正されたためと考えられます。やはり、交際費を使うほど売上・利益が高くなるという仮説が成り立つのでしょうか。続いてもう一歩踏み込んで営業利益との関係性を見てみます。
交際費と営業利益の関係性
(図3:相関係数0.164、n=365)
(図4:相関係数0.237、n=365)
上記図3をご覧ください。令和3年度の個人クリニックの交際費と営業利益のプロット図になります。
こちらの相関係数は0.164となり、先ほどの売上、粗利益と比較すると、相関係数が極端に下がり相関関係が低いという結果になってしまいました。相関関係が極端に下がった要因としては、営業利益の性質から交際費そのものの影響を受けてしまっている可能性が大いに考えられます。
それを受けて交際費の影響を極力省いたものが、次の図4です。
交際費と交際費と相関性(係数0.3以上)が高い経費※1を省いた営業利益で再度相関関係を分析しました。
その結果、営業利益との相関係数は0.237となりました。図3と比べると相関係数は上向きに転じましたが、それでも純粋に交際費と営業利益との相関関係は低いことが明白になりました。
※1 具体的な経費項目:給料、法定福利費、衛生管理費、車両費、福利厚生費、旅費交通費、消耗品費
ちなみに…
院長の性別によって交際費の支出額に違いがあるのか検証してみました。
交際費の支出額で、男性平均700,683円、女性平均552,449円と、男性院長のほうが約3割支出が多い結果となりました。また、交際費との相関係数は男性(売上高 0.259、粗利益 0.108、営業利益 0.254)、女性(売上高 0.042、粗利益 -0.100、営業利益 0.098)となりました。交際費の支出額、相関関係ともに性別によって違いがあることが分かる興味深い結果となりました。
結論&考察
今回は個人のクリニックにフォーカスしましたが、法人のクリニックでもほぼ同じような検証結果となりました。ここまでをまとめると、交際費と売上高、交際費と粗利益にはやや相関関係があるものの、交際費と営業利益には相関関係がほとんどないことが確認できました。交際費を使うことにより売上が上がっているのか、売上が上がっているから交際費を使うのか、経費支出の判断軸はクリニックによって様々です。
ただ一つ言えるのは、今までの相関関係を見る限り、交際費を使うことで売上や粗利益が上がる可能性はあるが事業上の利益が必ずしも増えるわけではないため、売上や粗利益だけではなく、営業利益と交際費のバランスも注視する必要があるということです。
自院の各経費比率が一般的な水準と比較して、高いのか低いのか、専門家と共に分析されたい方は、お気軽にお問合せください。
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2023年3月1日
日本経営ウィル税理士法人
渡邊 宙
[クリニック経営データ分析]コラム
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事業形態
医療・介護
- 種別 レポート