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税務レポート賃貸マンションによる相続対策 節税対策の落とし穴

財産評価通達6項は節税対策の落とし穴?

解説:日本経営ウイル税理士法人
代表社員税理士 座間 昭男

1. 相続対策として購入した賃貸マンションの評価

相続税や贈与税の計算にあたって財産を評価する場合は、財産評価基本通達に従います。
例えば土地等の評価に使われる路線価は地価公示価格の80%程度に設定されています。
建物の評価は固定資産税評価額で評価することになっていますが、この固定資産税評価額は実際の建築価額の半分くらいになっているのが実態のようです。

被相続人の名義で借入をして不動産を購入すれば、不動産の評価額が借入金(現預金)の額より小さくなり、他の相続財産を圧縮することができます。
このことから、「アパート建築」や「マンション投資」が相続対策としてとして喧伝されています。

2. 賃貸不動産購入の相続対策に更正処分等を受けた事例

被相続人が相続対策として買っていた賃貸不動産について、相続人が財産評価基本通達の定める相続税評価によって、相続税の申告をしたところ、時価と著しく乖離しているとして、税務署が財産評価通達6項(総則6項と表記されることもあります)を適用し、更正処分等を行ったことで争いとなった事例をご紹介します。

平成25年9月16日、被相続人が売買価額15億円(土地9億円・建物6億円)を借入金15億円で購入した賃貸マンションを相続で取得し、相続人らは評価通達に基づき本件不動産を約4億7800万円と評価し、借入金15億円を債務として、相続税の申告を行いました。

これに対し国が、財産評価通達6項を適用し、本件不動産の評価額は、国が依頼した不動産鑑定士による「10億4000万円(鑑定評価額)」であるとして、相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定を行ったことで争いになっています。

3. 財産評価通達6項とは

通常、相続税の財産評価にあたっては、特別な定めがある場合を除き財産評価通達に基づき評価されます。
しかし、財産評価通達によらないことが相当と認められるような特別な事情がある場合、財産評価通達6項の適用が検討されます。

財産評価通達6項 

「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」

4. 東京地方裁判所の判断

東京地方裁判所は令和2年11月12日、相続で取得した賃貸マンションの相続税評価額を巡り争われた事件について、財産評価通達6項に基づく国税庁長官の指示による評価を認め、相続人ら(原告)の請求を棄却しました。

5. 東京地裁が指摘した著しい乖離等のポイントと内容

・通達評価額約4億7800万円と鑑定評価額の10億4000万円に、5億円以上の著しい乖離が生じています。
売買価額15億円と通達評価額約4億7800万円の間に、更に著しい乖離が生じています。
さらに15億円を借入することにより、債務を大幅に増額して相続財産を圧縮することになります。

・これらのことは被相続人に肺がんが発覚した直後に、不動産の購入を急いだことから生じたものです。(相続税の負担軽減を認識・期待して本件不動産が購入された)。

東京地裁は

「処分行政庁から、評価通達の定めにより評価することが著しく不適当と認められるとして、不動産鑑定士が鑑定評価した評価額により更正処分を行ったことに対し、通達評価額と鑑定評価額や相続開始の2か月前に購入した際の価額と著しい乖離が生じており、当該不動産の購入は相続税の圧縮効果を期待して行ったものであるといえ、評価通達に定める評価方法によって評価することによって、かえって租税負担の公平を著しく害することが明らかであることから、特別な事情があるというべきで、当該不動産の時価は鑑定評価額と認めるのが相当」
―東京地裁 令和2年11月12日判決 相続税更正処分等取消請求事件―

としています。

6. おわりに

財産評価通達6項は行き過ぎた節税を抑えるための規定であるといわれています。
財産評価通達6項がどのような基準で適用されるかについては、明確なルールはありません。
相続対策のマンション投資は全て財産評価通達6項が適用されるのかというとそんなことはないと思います。
その取得の時期や目的、使用状況などを勘案して、著しい節税をねらったものなのかが総合的に判断されます。
問題にされているのは「不動産の評価」であって、借入金で賃貸不動産に投資する行為そのものが否定されているわけではありません。
マンション投資のきっかけが相続対策であっても、賃貸事業を行う意思があれば問題がないのでは?と思っています。
一方で、不動産を保有することは、その管理や価額下落のリスクも負います。
相続対策を不動産でとお考えの方は、バランス感覚を大切に、専門家にご相談ください。

2021年6月1日

日本経営ウイル税理士法人
代表社員税理士 座間 昭男

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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