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相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価【税務レポート】

相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価

解説:税理士法人日本経営
代表社員税理士 座間 昭男

会計検査院は2024年11月、「令和5年度決算検査報告の概要」を公表しました。
相続等で取得した取引相場のない株式(非上場株式)の評価が検査の対象となった件について、取り上げてみたいと思います。

Ⅰ. 検査の背景

取引相場のない株式は、株式の発行会社(評価会社)の規模及び株主の区分に応じて異なる方法で評価します。

1. 原則的評価方法として次の3つの評価方法があり、評価会社の規模区分に応じて評価方式が定められています。
 ① 大会社は「類似業種比準方式」(1株当たりの類似業種比準価額により評価)
 ② 小会社は「純資産価額方式」(1株当たりの純資産価額により評価)
 ③ 中会社は「併用方式」(類似業種比準価額と純資産価額を併用することにより評価)
を用います。

2. 同族株主以外の株主等が取得した株式では、特例的評価方式である「配当還元方式」(年配当金額を一定の率(還元率=10%)で割り戻すことにより評価)で株式の価額を計算します。

Ⅱ. 検査の状況

会計検査院は令和2,3年分の相続税等の申告のうち、取得した財産に取引相場のない株式のある申告の中から1,600件を無作為抽出して検査を行いました。

類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の27.2%となっており、類似業種比準価額は、純資産価額に比べて相当程度低い水準となっています。
類似業種比準方式(①)及び併用方式(③)による各評価額は、純資産価額方式(②)による評価額に比べて相当程度低く算定され、各評価方式の間で1株当たりの評価額に相当のかい離が生じている状況です。評価会社の規模が大きい区分ほど評価額が低く算定される傾向にあります。

配当還元方式の還元率(10%)に基づき算定される評価額が通達制定当時(昭和39年)の金利等を参考にするなどして設定され、その後、還元率は金利の水準が長期的に低下する中で見直されていません。還元率が社会経済の変化に応じたものとなっておらず、近年の金利の水準と比べ相対的に低くなっているおそれがあると思料しています。

Ⅲ. 検査院の指摘

会計検査院は、類似業種比準価額が純資産価額と比べて低くなる要因として、類似業種比準価額の計算式等に係る評価通達の改正の影響を挙げています。
これまでの類似業種比準方式における「類似業種の株価の選択に当たっての業種目及び対象期間の範囲を広げる改正」、「評価会社の1株当たりの利益金額の選択に当たっての対象時期の範囲を広げる改正」により、類似業種比準価額を下げることが可能になったとしています。

また、配当金額を計上しておらず、配当金額の比準割合がゼロの評価会社が約80%を占めている状況において、配当金額を計上していない評価会社の類似業種比準価額の計算では、実質的に2つの比準要素の合計を3で除して評価額を算定するため、評価額が下がると指摘しました。

特例的評価方式である配当還元方式について、還元率10%は還元率が社会経済の変化に応じたものとなっておらず、近年の金利の水準と比べて相対的に高い率となり、10%の還元率に基づく評価額は、通達制定当時と比べ相対的に低くなっているおそれがあると指摘しました。

Ⅳ. 会計検査院の所見

会計検査院は、国税庁において、相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について、異なる規模区分の評価会社が発行した取引相場のない株式を取得した者間での株式の評価の公平性や社会経済の変化を考慮するなどして、評価制度の在り方について様々な視点からより適切なものとなるよう検討を行っていくことが肝要と指摘しました。

Ⅴ. 最後に

取引相場のない株式は、会社の規模や株主の区分に応じて異なる方法で評価されます。大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社は併用方式を用い、同族株主以外の株主が取得した株式は配当還元方式を使います。純資産価額方式と配当還元方式は長期間にわたり大きな改正がなく、還元率は約60年間10%のままです。一方、類似業種比準方式は複数回の改正が行われています。

会計検査院は、相続等で取得した非上場株式の評価方法に関して、評価会社の規模が大きいほど評価額が低くなる傾向や、配当還元方式の還元率が通達制定当時と比べて相対的に低くなっている可能性を指摘しました。
これを受け国税庁は「実態の把握に努める」としています。
今後の動向に注目したいと思います。

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2025年01月01日

税理士法人日本経営
代表社員税理士 座間 昭男

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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