クリニックの広告宣伝費は売上や利益に繋がるのか?【クリニック経営データ分析 Vol.03】
クリニックの広告宣伝費は売上や利益に繋がるのか?
筆者:日本経営ウィル税理士法人
渡邊 宙
イントロダクション
広告宣伝費とは、不特定多数の方に対する宣伝的効果を意図した費用のことです。クリニックにおいて広告宣伝費は、駅に設置する医院看板、雑誌や地域紙への掲載、電車やバスの車内放送、医院のwebサイト、求人広告などがあげられます。今回は、こうした広告宣伝費がクリニックの業績にプラスの影響があるのかどうか検証してみました。これからの経営にお役立ていただければ幸いです。
売上と広告宣伝費の関係
まず、広告宣伝費と売上との相関を取りました。
ここでの売上とは、保険診療収入及び自由診療収入を合わせた、本業での収入全体を表しています。個人法人全体としての広告宣伝費と売上との相関係数は0.52でした。また、個人事業における相関係数は0.24、法人における相関係数は0.50となりました。同様に、粗利益との相関係数は個人法人全体で0.53、個人事業における相関係数は0.27、法人における相関係数は0.51となりました。粗利益は医薬分業における売上の大きさの影響が排除されることから、売上よりも相関がやや高くなったと考えられます。
このように、クリニックにおいて広告宣伝費と売上の間には高い正の相関があることが分かります。一定規模以上に収益を拡大しようと考えると、広告宣伝費による集客も必要となってくるのではないかと考えられます。
※相関係数は、一般的に0.3以上になると「相関関係がある」、つまり、一つの値が変化すると、もう一つの値も変化すると認められる、と言われています。
【相関】 | 個人事業 | 法人 | 全体 |
売上高 | 0.24 | 0.50 | 0.52 |
粗利益 | 0.27 | 0.51 | 0.53 |
データから見ると、広告宣伝費の支出はクリニックの業績にプラスの影響を与えていると言えるのではないでしょうか。一方、手術や在宅診療など診療単価の高い診療を行っており、広告宣伝費の支出額以上に売上が高くなっている事業所もあると考えられ、一方で、広告費はそれほど支出せず、口コミなどにより売上を伸ばしているクリニックや診療所もあります。いずれにしても、現状の広告宣伝費の支出が、経営戦略と照らし合わせて適切かどうかについては、慎重に検討することをお勧めいたします。
広告宣伝費比率
次に、売上に対する広告宣伝費の支出額の割合を見ていきます。個人事業における売上に対する広告宣伝費の支出額の割合は平均0.6%、法人の平均は0.7%、全体としては0.7%程度が平均となっています。当社顧客データによると、個人事業全体で年間の広告宣伝費の支出額の平均は約37万円、法人全体の平均は約103万円となりました。
また、内科、整形外科、耳鼻咽喉科、眼科、歯科でその比率を比較したところ、比率が最も高かったのが眼科で1.0%ほど、最も低かったのは内科で0.4%ほどでした。
広告宣伝費の事例
主な例として、駅に設置する医院看板、雑誌や地域紙への掲載、電車やバスの車内放送などは、今も昔も変わらず活用されています。また、自院のホームページを充実させ、プロモーションに力を入れているクリニックも多くなってきています。どういった広告媒体が適切かは、患者の年齢層等によって変わります。
また最近は、人手不足により従業員の募集に力を入れているクリニックも多くなってきており、求人広告自体が自院の宣伝につながることもあります。また、患者数が伸びているからこそ人手不足で従業員の募集に力を入れ、結果的に広告宣伝費の金額が多くなっていることも考えられます。人口減少や物価高騰など社会環境が変化する中、クリニックの業績をよりよくしていくための適切な広告宣伝費の使い方が、今後は一層求められてくるのではないでしょうか。
結論&考察
今回は、広告宣伝費とクリニックの業績との関係について解説しました。広告宣伝費とクリニックや診療所の業績には、プラスの影響があることが分かりました。今回は売上と粗利益への影響に焦点を当てて解説しましたが、現状の広告宣伝費の支出が適切かどうか、自院の各経費比率が一般的な水準と比較して高いのか低いのか、詳細に専門家と共に分析されたい開業医の皆様、お気軽にお問合せください。
貴院の経営状況を分析されませんか?
数年後に目指す自院の姿を明確にすることが
ベンチマークの役割だと、私たちは考えています。
2023年12月25日
日本経営ウィル税理士法人
渡邊 宙
[クリニック経営データ分析]コラム
【Vol.01】クリニックの交際費は売上や利益に繋がるのか?
【Vol.02】福利厚生費が多いと、クリニックの業績は良くなる?
-
事業形態
医療・介護
- 種別 レポート