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裾野が広がるM&A市場において、会計事務所が果たすべき役割を考える 対談

本稿は、月刊実務経営ニュース2021.09「会計事務所インタビュー」記事です。

対談:日本経営ウィル税理士法人代表社員税理士 吉本英明/日本M&Aセンターコンサルタント戦略営業部部長 齋藤秀一


―― 本日は、日本経営ウィル税理士法人の代表社員税理士である吉本英明先生と、株式会社 日本M&Aセンターのコンサルタント戦略営業部部長である齋藤秀一氏にお話を伺います。
日本経営ウィル税理士法人は、その名称から分かるとおり、日本経営グループの会計事務所です。同グループは、医療福祉分野の経営支援において国内最大級の規模を誇ります。同事務所は、コンサルティング部門の株式会社日本経営とともに、税務会計部門として日本経営グループの中軸を担っています。
日本M&Aセンターは、今年で創業30周年を迎えた国内トップのM&A仲介会社です。M&A支援専門会社として初めて東証一部上場を果たし、コロナ禍の昨年も含め、11期連続で増収増益を達成しています。現在、約500名のM&A専門コンサルタントを擁し、M&A仲介の成約実績は累計で6500件を超えます。
今回の取材では、日本経営ウィル税理士法人における中小企業の事業承継支援の取り組みや、日本M&Aセンターと連携して成約させたM&A案件の詳細について、吉本先生と齋藤部長のお二人にお聞きしたいと思います。
まずは、吉本先生のプロフィールからお願いします。

吉本英明(以下、吉本)
私は1990年に、近畿合同会計事務所(現日本経営ウィル税理士法人)に入社しました。今紹介していただいたように、日本経営グループのお客様は医療機関が多いのですが、私は医療関係以外の一般企業と資産家のお客様を担当してきました。
ですから、事業承継関連の業務でも、一般企業における株式の対策や株式の承継といった案件に携わってきました。第三者承継、いわゆるM&A案件に関わるようになったのは、ここ数年のことです。

―― 貴社がM&A支援に注力するようになったのが数年前ということでしょうか。

吉本
医療部門では、それ以前からM&A支援に取り組んでいました。
一般企業でM&Aのニーズが高まっている要因は、昨今の高齢化による後継者不在で、事業承継問題を抱えている事業者様が増えてきたことにあります。

専門会社と協力して顧客の満足するM&Aを成約

―― それでは、貴社が日本M&Aセンターと手掛けたM&Aの成功事例について伺います。案件の概要からお聞かせください。

吉本
当該企業は、当グループの創業当初からのお客様です。私が入社した当時、担当させていただいたこともあり、ご相談を頂きました。
依頼者は、創業社長の奥様です。創業社長は3年ほど前に亡くなられ、甥(おい)が後を継いだのですが、二代目社長の体調が芳しくなく、奥様が会長として実質的に会社を切り盛りしていました。
それにより、経営のプロではない会長のご負担が日に日に増していったため、ご相談を受けたのが始まりです。ずっと私が担当していたわけではありませんが、承継については以前から聞かされていたので、改めてお話を伺い、M&Aをご提案しました。
お客様には、会社への思いがたくさんあります。その思いをできるだけかなえられるような第三者承継にしたいと考え、日本M&Aセンターさんに協力を依頼しました。いろいろ無理難題を聞き入れていただいたおかげで、先方のご希望にかなう結果になったと思います。

―― 吉本先生にそのような相談が寄せられたということは、貴社の事業承継対策への取り組みを顧客も承知しているのでしょうか。

吉本
M&Aについては、十分に周知できていませんでした。今回の事案を通じてそのことを痛感し、当社が事業承継対策の手段のひとつとしてM&Aに取り組んでいることを、一般企業のお客様にさまざまな形でご案内し始めているところです。
並行して、顧問先を訪問する税務担当者にM&Aニーズをキャッチしてもらうため、情報共有と意思の疎通を図っています。

―― 経営者の立場になって考えれば、付き合いが長く、自社の経営状況を熟知している税理士に頼めるほうがよいでしょうね。

吉本
そう思います。本当にありがたいことに、今回のお客様は悩み事があるたびにご相談くださいました。それだけ信頼していただいているわけですから、われわれも誠心誠意お応えしてきました。それがお客様の安心につながることが、われわれの喜びでもあるのです。

他の承継方法も検討したうえでM&Aを提案

―― 齋藤部長に伺います。今回のM&A案件において、吉本先生からの協力依頼に、貴社がどのように対応されたかお話しいただけますか。

齋藤秀一(以下、齋藤)
ご相談の内容は、先ほど吉本先生からご説明のあったとおりです。廃業も検討されているとのことだったので、まずは、お客様に経営状況を細かくお聞きするところから始めました。
すると、しっかり利益が出ていて財務内容もよく、従業員さんにも問題がないことが分かりました。この会社を廃業させれば、雇用が喪失し、取引先にも迷惑を掛けることになり、社会にとってマイナスにしかならないと判断しました。
そこで、会社存続を前提に、3つの承継パターンを会長にご提示しました。親族承継、企業内承継、それらが無理ならM&Aを検討しましょうと申し上げたのです。
まず親族承継ですが、最近は高齢者から高齢者に親族承継するケースが増えています。当該企業もそのケースでしたがうまくいかず、親族のなかから次の候補も見つかりませんでした。
そこで第2の選択肢として、従業員による承継、いわゆる企業内承継の可能性を探りました。
しかし、財務内容がよかったことが逆に災いし、株の承継が難しかったため断念しました。
そして最終的に、M&Aによる第三者承継をご提案したという経緯になります。

―― 最初からM&Aありきではなく、他の承継方法を探ったうえで、M&Aがベストとの結論に至った場合にのみ受託されるのですか。

齋藤
そのとおりです。他の方法も十分に検討したうえで、M&Aが最良と判断されなければ、お客様の納得感は得られません。

―― 貴社が仲介することに対する顧客の反応はいかがでしたか。

齋藤
会計事務所のお客様から見れば、当社は外部の業者です。私たちも誠心誠意ご説明をするのですが、普通はそうすんなりとは信用していただけません。
しかし、会計事務所の先生方にはお客様の信用がございます。
今回も吉本先生が絶大な信用を得ていたため、まったく苦労はありませんでした。われわれは、吉本先生にしっかりご説明して納得していただくだけでよかったのです。吉本先生が賛成するなら、それでいきましょうというわけです。

―― 今回の案件における日本M&Aセンターの対応について、吉本先生の感想をお聞かせください。

吉本
われわれだけでは、お客様からM&Aのご相談を受けて買い手を探したとしても、情報が限られてしまいます。その点、膨大な数の企業からそのお客様に合う会社を探し出していただける日本M&Aセンターさんは、本当に心強い存在です。
しかも、お客様に寄り添った対応をしていただけますし、契約からクロージングまで一連の手続きも引き受けてくださるので、紹介するわれわれも安心です。
お客様は、希望価格で売れさえすればよいとは思っていません。事業がしっかり承継され、従業員の幸せも保証でき、長年にわたって培われた社風も引き継いでほしいと考えています。
先ほど申し上げたとおり、今回の案件でも会長様にそのようなお気持ちが強くありました。特にこだわっておられたのが、製造業の要ともいえる技術の承継です。ですから、製造技術もしっかり理解できる経営陣のいる会社に引き継いでもらう必要がありました。
日本M&Aセンターさんは、その思いを十分に理解したうえで買い手企業を探してくださいました。おかげで、お客様にご満足いただける結果となりました。
また、買い手側の会社は製造業のほかに運送業も営んでいるため、M&A後は当該企業の運送費が大幅に削減されました。単に事業が継続されただけではなく、買い手企業の強みを生かした相乗効果で、経営効率もアップしています。

買い手企業を約2週間でスピード選定

―― 齋藤部長に伺います。貴社が買い手企業を探すにあたって、重視している点は何でしょうか。

齋藤
われわれは、M&Aの目的は3つあると考えます。まずは、しっかりと事業承継をすることです。2つ目は、オーナー様に正当な対価が渡るようにし、同時に経営責任からしっかり切り離すことです。そして3つ目は、会社を成長路線に乗せることです。
どれほど優れたオーナー経営者でも、高齢になれば、リスクを負った事業拡大はできなくなります。一方で、規模は大きいほうが人材確保に有利です。また、他社と組んで会社を成長路線に乗せることも、これからは必要になってきます。これら3つの観点から、買い手企業を探します。

―― 今回の案件を例に、M&Aの買い手企業を探す手順を紹介していただけますか。

齋藤
買い手企業の選定はケースバイケースです。今回の案件でわれわれに課せられたミッションは、選定までの早さでした。
吉本先生からお話を頂いたのが、昨年の10月頃です。12月頃までに成約に至らなければ廃業になるとのことで、とにかく急ぐ必要がありました。
新たにニーズを探っている時間もなかったため、「歴史があり、実績もある会社」という既存のニーズ(条件)でピックアップした数社のなかから、即座に経営判断していただける会社を選び、ピンポイントでご紹介しました。
買い手が決まってからは手続きも順調に進み、1カ月半ほどでクロージングまで持っていくことができました。初めて会長とご面談させていただいてから2カ月半ほどでクロージングができ、会長にもご満足いただけました。

―― 日本経営ウィル税理士法人の事業承継支援への取り組みについて、どのようにお感じになりましたか。

齋藤
何よりも、吉本先生がお客様から全幅の信頼を得ているという印象が強かったですね。
われわれが提案するたびに、会長は吉本先生に意見を求めていました。それだけ吉本先生の考えを尊重されていたのです。事業承継を含め、経営面でこれまで数多くの相談に応じられていたのでしょう。

コロナ禍で裾野が広がるM&A市場

―― ここからは、今後の事業承継支援の取り組みに関する展望や、両社の提携関係の強化について伺いたいと思います。
まず、コロナ禍以降のM&A市場の変化について、齋藤部長の見解をお聞かせください。

齋藤 
当初は、売り手が増え買い手は減ると予測していましたが、現実は違いました。
売り手側は確かに増えています。経営悪化でご相談を受けるケースばかりでなく、コロナ禍をきっかけに真剣に事業承継を考え始め、M&Aに前向きに取り組もうというケースも出ています。

同様の現象が、実は買い手側にも起きています。コロナ禍を理由にM&Aの検討を中断した会社がある一方で、コロナ禍をビジネスチャンスと捉え、新事業をスタートしようと考える会社も現れているのです。
これまでM&Aの買い手側は売上50億円以上くらいの会社が多かったのですが、最近では売上20億円以上くらいの会社もM&Aで譲り受けされることが増え、買い手側の裾野も広がっている印象を受けます。

―― M&A市場は、縮小しているわけではないのですね。

齋藤
むしろ伸びています。緊急事態宣言下では、直接面談することが難しくなります。その
ため、会計事務所の先生方もお客様へのアプローチができず、全体の動きは鈍くなります。しかし最近は、ワクチンの接種率が上がるに伴い、相談件数と受注件数が増えているようです。

―― ちなみに、貴社が仲介するM&Aの規模は、どれくらいが主流でしょうか。

齋藤
売上規模でいうと1億~5億円、従業員数でいうと5~10名規模の会社が最も多く、半
数以上を占めます。次いで多いのが5億~10億円の規模で、3~4割になります。そして、10億円以上の規模の会社が1割前後です。
1億円以下の会社は、当社のグループ企業である株式会社バトンズ(東京都千代田区)で、ネットを使ってご相談を承っています。

顧問先への周知徹底とニーズの掘り起こしに注力

―― 吉本先生に伺います。今の齋藤部長のお話を受けて、貴社はどのように対応していかれますか。

吉本
最近、全業種を対象にM&Aプロジェクトを立ち上げました。M&A案件が発生するたびに、一般企業、病院、クリニックの担当者が集まり、話し合いながらM&Aを進めています。
また、お客様への周知徹底とニーズの掘り起こしも図っています。具体的には、お客様にM&Aの案内レターを定期的に送付したり、年1回実施している顧客アンケート調査にM&Aの項目を設けたりしています。
そのほか、メール配信やホームページでもご案内を載せるなど、M&A支援サービスの認知度を高める取り組みを進めています。

―― まず、会計事務所もM&Aの相談を受けてくれることを、多くの顧問先に知ってもらうわけですね。

吉本
はい。知らないうちにM&Aが行われ、気づいたら顧問先が消えていたのでは、あまりにもさみし過ぎます。顧問事務所として、M&A支援にも取り組んでいることを、しっかりアピールしていきたいと思います。
また、先ほど齋藤部長が仰(おっしゃ)っていたように、コロナ禍をビジネスチャンスと捉え事業拡大に乗り出すお客様もありますから、日本M&Aセンターさんのお力も借りながら、買い手企業のM&A支援にも取り組もうと、ニーズを探り始めているところです。

会計事務所がM&Aに関わる意義の大きさ

―― 会計事務所が顧問先のM&Aに関わることの重要性について、吉本先生のお考えをお聞かせください。

吉本
今回の案件にもいえることですが、「今のところ順調だし、まだ頑張れる」と、無理をしてしまう経営者は多いと思います。ところが、気づいたら経営が悪化し、自分も高齢になってしまった……。
そのような事態に陥るのを防ぐために、会社の将来を考え、タイミングを見計らい、ご勇退も含めて適切なアドバイスをすることが、会計事務所の務めではないでしょうか。
M&Aは、よいことばかりを並べてもうまくはいきません。どの企業にも問題はあります。その企業とのお付き合いの長い顧問事務所は、どこよりも経営状況を把握しているはずですし、資料も蓄積されています。
その顧問事務所が関与することで、M&Aもスムーズに進むはずですから、会計事務所が企業のM&Aに関わる意義は大きいと思います。

―― 齋藤部長に、日本経営ウィル税理士法人との今後の連携について伺います。

齋藤
M&Aの普及を目指しているわれわれにとって、日本経営ウィル税理士法人さんのM&Aへの取り組みは大変心強い限りです。
当社も、日本経営ウィル税理士法人の職員さん向けに勉強会を実施するなど、所内におけるM&Aの認知度向上に協力させていただいています。
現在、吉本先生をはじめ数名の方から直接ご相談を頂いていますが、今後は全ての職員さんとそのような関係を築いていきたいと考えています。皆様と直接情報交換をしながら、それを吉本先生にフィードバックするような仕組みをつくり上げていければと思っています。

売上規模1億円以下の企業から会計事務所のM&A支援を全面サポート

―― 最後に齋藤部長から、弊誌の読者である会計事務所の方々にメッセージを頂けますか。

齋藤
先ほどの吉本先生の言葉に尽きると思います。すなわち、中小企業経営者の一番の理解者は、間違いなく長いお付き合いのある税理士の先生方であり、会計事務所です。
ただ、多くの経営者がそのことに気づいていません。ですから、先生方にはぜひ、もっと積極的に経営者に寄り添い、事業承継などの悩みに耳を傾けていただきたいと思います。そのなかで、M&Aが最良の策と判断されたなら、当社は全力でサポートさせていただきます。
残念ながら、M&Aの効果や費用などについて、多くの中小企業経営者は知りません。M&Aに懐疑的な方もいらっしゃいます。
また、意外に思われる先生もいらっしゃいますが、前述のとおり、当社は売上規模1億円以下の企業から、グループ全体でM&A支援を行っています。
そこで、会計事務所の先生方には、M&Aのメリット、デメリット、ゴールの形などをしっかり理解されたうえで、自信をもってお客様に勧めていただきたいと思います。もちろん、われわれもしっかりとサポートいたします。

―― 会計事務所と日本M&Aセンターがタッグを組むことで、大きな相乗効果が期待できそうです。本日は大変貴重なお話をありがとうございました。

日本経営ウィル税理士法人  吉本英明
代表社員。税理士。1968年生まれ。1990年、近畿合同会計事務所(現日本経営ウィル税理士法人)に入社。企業の税務・会計、承継・相続対応、経営計画策定、実績検討、経営指導など経営者に寄り添った指導、提案を数多く経験。ISO導入支援コンサルティングの経験もあり、品質管理に関する知識も豊富である。

株式会社日本M&Aセンター  齋藤秀一
コンサルタント戦略営業部部長。公益社団法人日本証券アナリスト 検定会員。CFP。1978年生まれ。みずほフィナンシャルグループを経て、2013年に日本M&A
センター入社。近畿圏の経済活性化に貢献すべく、会計事務所とともに M&Aを実現する部署
を率いている。中堅・中小企業や医療法人、上場企業など、幅広い分野での提携を実現。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

  • 事業形態 相続・オーナー
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