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診療所の収益回復と令和3年夏期賞与の傾向は?

コロナ禍でありながら、クリニックの収益は回復傾向が見られます。そのような中で、令和3年の夏期賞与をどう考えたのか。医院開業・経営の現場を、アンケート調査を踏まえてレポートします。

解説:日本経営ウィル税理士法人
宮前尭弘


クリニックの収入はコロナ初期と比較して回復傾向に

クリニックの収入は回復傾向

当社のお客様への調査によると、今春から、ほとんどのクリニックは収入が回復傾向にあり、昨春の緊急事態宣言から続いていた来院患者減少も、落ち着きを見せています。データによると、保険診療収入の数値が4月は全診療科平均で前期比約140%という結果となりました(前期のダメージがいかに大きかったかを表していると言えます)。

診療科目による回復傾向の違い

診療科目による違いはどうでしょうか。

昨年、影響の大きかった小児科・耳鼻咽喉科は反動で回復の兆しが強く表れており、中には前期比約150~240%と昨年を大きく上回る収入となったクリニックがみられました。眼科・歯科も、比較的回復幅が大きかった診療科です。

一方で、内科・心療内科・皮膚科は一昨年~昨年における患者数の減少が緩やかであったため、今年にかけての回復も堅調ではありますが、前期比100%を上回る先が多くありました。

今年の賞与をどう考えたのか

顧客アンケートデータから見える傾向

収益の改善傾向が見られる中、今夏の賞与をどう考えたのか。私どものお客様に緊急でアンケートを行い、約340件の医科・歯科クリニックからご回答をいただけました。

全体の約64%が「今年も継続して例年賞与予算の100%程度を支給見込」とご回答。そのほとんどが、昨年の夏季賞与予算でも「例年通り支給する」と回答していたクリニックでした。

一方、全体の約21%のクリニックでは「昨夏よりも賞与予算を増額し、例年通りの予算額に戻す」とのご回答でした。昨年は夏季賞与を「例年の70~90%」に抑えていたものの、今年は例年の水準まで回復させるケースが多くみられます。

「昨年の夏季賞与予算の70~90%程度」とご回答されたクリニックは、全体の約5%。今年の収入は回復傾向にあるものの、昨年4~5月に大きく減収したクリニックが多く、先行きを懸念して今年も予算額を抑える傾向がみられました。ただ、「今後、状況が改善すれば冬季賞与で上乗せしたい」という声を多く頂いています。

コロナワクチン業務への特別対価

ところで、6月からクリニックにおいてもコロナワクチン接種業務がスタートしました。予約受付、書類チェック、検温、薬液準備…接種業務以外にも、様々な手順に追われ、繁忙状態になっているクリニックも少なくありません。

患者さんからのクレームに疲弊しながら、感染リスクもある中で頑張ってくれたスタッフに金銭面でも報いたいということで、次のような形で反映された診療所もあります。

  • ワクチン手当(コロナ手当・危険手当・特別手当)の名目で追加支給を行う。
  • 賞与とは別に、ワクチン手当のみ現金で「手渡し」する。
  • 手当の金額としては、ワクチンの実施本数に応じて一人2~5万円程度、中には20万円以上を加算したケースも。一律ではなく繁忙の程度や感染リスクの大きさによって差を付ける。
  • 単価上乗せの補助金がある6~7月分までを考慮し、一旦支給する予定。8月以降は状況に応じて検討。 

一方で、「高齢のスタッフ達に配慮し、ワクチン接種業務をかかりつけの患者のみに抑えている」という診療所もあり、リスクを抱えながら、できうる限り患者さんや自院にとって最良の選択肢を模索されている様子が見られました。

手当によって扶養から外れるスタッフの対応

令和3年6月4日付の厚生労働省通知では、「医療職がワクチン接種業務に従事したことによる給与収入については、(社会保険上の扶養における)収入確認の際には収入に算定しない」「本特例措置の対象者はワクチン接種業務に従事する医療職(医師、歯科医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士及び救急救命士)とする。」とあります。

受付や事務スタッフといった文言は見受けられませんが、令和2年4月10日付の厚生労働省事務連絡では「想定していなかった事情により、一時的に収入が増加し、直近3ヶ月の収入を年収に換算すると130 万円以上となる場合であっても、直ちに被扶養者認定を取消すのではなく、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等と照らして、総合的に将来収の見込みを判断する」とあり、妥当と認められる程度の金額であれば、ワクチン業務に対する手当による一時的な年収の増加をもって被扶養者の認定に影響するものではなく、被扶養者から即座に外れるものではないと考えられます。

通常の給与・賞与とは別に支給したことが分かるように、「特別手当」などの別項目として明細上に記載するなどの工夫も考えられるでしょう。

コロナワクチン収入で課税対象に!?

コロナワクチン接種で対応されるクリニックが多い中で、忘れてはいけないのが消費税上の扱いです。

国税庁から出されているFAQの問 14-3.《医療機関が受領するワクチンの接種事業に係る委託料の消費税の取扱い》によると、「ワクチン接種事業の委託料については、医療機関が市町村に対してワクチンの接種事業を行うという役務の提供の対価であり、消費税の課税対象となる」とあります。

例年であれば課税売上が1,000万円に達しない場合であっても、ワクチン収入により今期の課税売上が1,000万円を超えた場合は、来期あるいは来々期に課税事業者となり消費税の納税が発生する可能性があります。簡易課税制度を検討する、課税事業者となる年の課税売上に注意する(車両売却等)ようにしましょう。

アフターコロナのクリニック経営

このように、賞与決定にはマネジメントだけではなく、税金や社会保険など専門的な問題も関わるため、何がベストな判断なのか、一概には決められるものではないと考えております。

専門家と共に今後の施策を検討されたい方は、お気軽にお問合せください。

解説:医療事業部 宮前尭弘

本稿はご回答時点における一般的な内容を分かりやすく解説したものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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  • 事業形態 医療・介護
  • 種別 レポート

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