お役立ち情報

診療所の経営・相続Q&A「有給休暇取得義務化は、大きなチャンス」

有給休暇の取得はじめ、いろいろなルールや課題に一つひとつ対応していると、組織の運営がとてつもなく難しいものになってしまい、スタッフとの距離がどんどん広がっているように感じます。

解説:日本経営ウイル税理士法人
作田 裕輔


一つを立てればもう一つが立たない

ご存じの通り、2019年4月から全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、「年次有給休暇の日数のうち 年5日については、使用者が時季を指定して取得させること」が義務付けられました。

診療所においても同様で、ルールに沿って有給休暇を与えなければなりません。しかし、人材が限られる中での有給休暇の取得は、なかなか難しいものがあります。300人の企業であれば不公平感なく運用できるルールが、5名のチームではとてつもない難しいルールになるということは、現実にはよくあることです。

有給休暇の問題だけであればまだ対応できたとしても、わずか5名のチームに対して、売り手市場による採用難、最低賃金の引上げ、多様な働き方の実現、同一労働同一賃金、派遣会社や紹介会社からの営業、採用手段の多様化・SNSへの書き込み、職種間の格差など、対応しなければならないテーマは大企業と同じように多岐にわたります

一つを立てればもう一つが立たないといった仕組みの中で、なんとか舵取りをされているというのが実情ではないでしょうか。

現場・チームが何によって動いているのか

そもそも300名の企業であれば、Aさんがルールに則って年間7日の有給休暇を取得し、Bさんがルールに則って年間20日の有給休暇を取得したとしても、それで組織が崩壊するということはありません。しかし、5名のチームの中でそのようなことが起きると、AさんはBさんと口も利かないでしょう。

しかし、5名のチームの中で、Bさんがもしご家族の介護などで休まなければならないのだとしたら、有給休暇の申請が出ていなかったとしても、Aさんは快くBさんの仕事を引き受けて、何ら異論は挟まないはずです。300名の企業では逆に、ルールに則らずに休むことは、なかなか困難ではないでしょうか。

つまり、ルールやいろいろな課題があるとして、それは無視することはできませんが、現場がルールによって動かされているのか、ルールではないもので動かされているのかによって、マネジメントは全く違ったものになるのだと思います。

自分たちのチームという気持ち

診療所の場合は、ルールによって動かされているというよりも、「自分たちのチーム」という気持ちによって動いているところが多いのではないでしょうか。

もし院長が、このチームは私のチームだ。年間5日の有給休暇を取得しなければならないから、全員公平に5日の有給休暇にする。そういうルールにする、という説明をしたら、スタッフからは、「人手が足りないのでスタッフを増やしてください」「有給休暇を連休の前後に取ってもいいですか」などという言葉が、無遠慮に出るかもしれません。

しかし、「自分たちのチーム」として運営している診療所では、違ったアプローチをするでしょう。有給休暇の取得についてスタッフが皆で話し合い、限られたメンバーの中でも仕事が回るように、最も休みやすいタイミングを考える。もし院長が了解してくれるのであれば、連休の前後にも休みを入れたい。それは毎年交代で不公平感がないようにする。

もちろん、最終的に院長の決裁が必要です。しかし、皆で話し合って決めたことは、それほど自分勝手なものにはならないというのが、私の実感です。

チームワークを高める大きな試練でチャンス

ところで、話し合いの過程で不満をもつメンバーがいるかもしれません。皆の前で個別の家庭環境や事情を言えないケースもあるでしょう。そういうしわ寄せをすべてベテランがかぶって我慢をしているというケースも散見されます。

そこは院長が一人ひとりに意見を聞いて、最終決定をする必要があります。予算を別途手当して考えるということもあるかもしれません。

わずか数名~十数名の診療所のチームに、中小企業なみの労務管理やマネジメントを求めることは困難ですし、ルールだからといってトップダウンで答えを出すと、むしろチームをバラバラにしてしまいかねません。

しかし、同じ取り組むとしても、メンバー全員が自分たちの職場をよりよいものにしていくために何か発言をできれば、チームワークを高める大きな試練でチャンスになると、私は思います。

もっとも、それができるのは財源に余裕があるからです。収益も高めながらよりよい職場にしていこうという意識が前向きなチームづくりに役立つのであって、収益が下がり続けている中で、働き方改革や職場環境改善だけを図ることは、とても難しい。同じようにはいかないかもしれません。

解説:医療事業部 作田裕輔

本稿はご回答時点における一般的な内容を分かりやすく解説したものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

  • 事業形態 医療・介護
  • 種別 レポート

関連する事例

贈与により娘名義の口座でも、妻の財産とされるのか?

  • 医療・介護

関連する事例一覧を見る

関連するお役立ち情報

診療所の経営・相続Q&A「いい人材を確保する」

  • 医療・介護

関連するお役立ち情報一覧を見る