開業したい医師に知ってほしい 会計事務所が教えるクリニックの継承 会計事務所だから分かる新規開業と承継開業のちがい


開業したい医師に知ってほしい 会計事務所が教えるクリニックの継承
会計事務所だから分かる新規開業と承継開業のちがい
税理士法人日本経営
医師が「これから自分のクリニックを開業したい」と考えるとき、新規開業する方法と、既存の医院を引き継ぐ形で承継開業という方法があります。それぞれに独自のメリットとデメリットがあるため、事前にしっかり比較検討しなければなりません。
ここでは、開業までの手順や資金繰りのポイント、また実際に起こりやすい失敗事例について、会計事務所ならではの視点を交えて整理しました。これから医院開業を目指す先生方にとって、少しでも具体的な判断材料になることを願っています。
新規開業と承継開業の特徴
まず、新規開業は、開業地を自由に選べる点や、クリニックのコンセプトをゼロから設計できる点が大きな魅力です。土地探しから内装デザイン、医療機器の選定、スタッフの採用など、自身の理想を形にしやすい一方で、患者数はゼロからのスタートとなるため、開業直後の数か月間は採算面での不安がつきまとうかもしれません。
そこに加えて、近年は医療スタッフの採用が難しく、人材確保に時間を要する可能性もあります。多額の初期投資を伴うことも多く、今後の返済計画や生活費とのバランスを十分に検討しながら準備を進める必要があります。
これに対し、既存のクリニックを引き継ぐ承継開業は、一定の患者基盤や地域の知名度、スタッフ体制をそのまま引き継ぐことができるため、開業直後の売上や経営を比較的安定させやすい点が特徴です。
一方で、「医師が交代した」という口コミが広まることによる患者数の減少や、設備が古かった場合の買い替えコスト、既存スタッフとの運営方針のすり合わせなど、新規開業にはない調整が必要になることも多々あります。前院長やスタッフとの人間関係や契約内容の見直しなど、開業前後に行うべき作業が想像以上に多い点にも留意すべきでしょう。
開業までの流れと資金繰り
新規開業の流れ
新規開業では、まず出店候補地を調査し、その地域でどのような診療科のニーズがあるかを見極めることから始まります。事業計画を作り込み、銀行などからの資金調達を行いながら、同時並行で建築や内装デザイン、医療機器の選定、スタッフの採用、広告・宣伝などの準備を進めていくのが一般的です。
開業後すぐの診療報酬入金は2か月ほど遅れるため、開業資金だけではなく運転資金を手厚く確保しておかなければ、家賃や人件費などの初期コストに対応できなくなるリスクもあります。こうした事情から、「少なくとも一年間の支出をまかなえるだけの資金繰り」を見通しておくことが望ましいでしょう。
承継開業の流れ
一方、承継開業の流れでは、まず売り手の先生と面談し、クリニックを譲り受ける条件や時期を明確にしていくことからスタートします。譲渡価格の交渉や契約内容の調整が非常に重要で、譲渡額に含まれる“営業権”の評価をどう捉えるかによって必要な資金総額が大きく変わります。
実際には、仲介業者(M&A専門会社・銀行・会計事務所など)を活用するケースが多く、それぞれが得意とする分野も異なるため、状況に応じて最適なサポート先を選ぶことが肝要です。承継後は、そのまま患者とスタッフが存在するため、早期の売上確保が期待できる半面、スタッフの人件費や既存設備の修繕費などをきちんと把握したうえで、適切に資金計画を組み立てることが求められます。
新規開業と承継開業における資金シミュレーションの一例
実際に想定される初期投資費用や、開業後1年目から5年目までに手元に残る資金のシミュレーションを比べると、新規開業は初年度の収益が伸び悩むため、どうしても手元資金が減少しがちです。
承継開業は譲渡額という大きな支出こそあるものの、患者数がある程度見込めるため、早い段階でしっかり利益が出ることで資金面の不安が小さくなる傾向があります。ただし、譲渡価格の算定やスタッフの給与水準、医療機器のメンテナンス費など、実態に合わせた見積りができないと「承継だからこそ安定」とは言い切れません。
いずれにしても、診療報酬のタイムラグ(通常2か月遅れで入金)や税金・返済のタイミングを考慮した現実的な資金繰りの組み立てが欠かせないでしょう。
失敗事例から学ぶポイント
後継者と話が進まず、新規開業を選択してしまったケース
院長が明確な引退時期を決めないまま「後継者候補」として医師を雇用していたため、譲渡価格や具体的なタイミングの交渉が滞り、結局退職して別の場所で新規開業されてしまった事例です。
当事者同士だけで話を詰めようとしてもうまくいかないことが多く、少なくとも半年以上前から時期・条件を具体化し、第三者の専門家を間に入れるなど、計画的に話を進める必要があります。親族同士であっても同様の事態が起こりやすいため、契約の棚卸しと継承時期の共有が重要だといえるでしょう。
既存スタッフの働き方が急変し、トラブルになったケース
承継直後に診療時間の拡大や電子カルテ導入などを一気に進めた結果、長年働いていたスタッフから「業務量が増えたのに給料が変わらない」という不満が噴出した事例です。
スタッフが扶養範囲内で働くことを重視している場合は単純に賃金を上げれば解決、というわけにもいきません。大幅な変更は段階的に進め、賞与や手当の暗黙のルールなどもあらかじめ売り手の院長から情報を引き出しておき、混乱を最小限に抑える工夫が求められます。
仲介業者・専門家の選び方
承継開業を前提に動く場合、M&A専門業者は豊富な案件を持っていますが、成約後のフォローが手薄なケースもあります。
銀行は資金調達サポートに強い反面、他の金融機関への借入切り替えなどは期待しにくいかもしれません。会計事務所は税務や財務のスキーム構築に強く、開業後も相談しやすいというメリットがある一方で、医療業界独特のM&Aや法律面に精通していない事務所も少なくありません。目的や状況に合わせて、複数の専門家の意見を聞いてみるのが理想的でしょう。
業者 | 特徴 | 注意点 |
M&A専門業者 | – 案件数・成約事例が豊富 – 登録者数が多く幅広い | – 成約後のフォローが薄い場合も – 案件を自分で見極める必要有 |
銀行 | – 資金調達が容易 – 他専門家と連携があることが多い | – 借入先が限定されがち – 案件数は少ない |
会計事務所 | – 税務面のノウハウ・スキーム検討が可能 – 承継後もフォロー可能 | – 医療M&Aに慣れていない事務所も – 案件数が限られることも |
まとめと今後の一歩
新規開業は、自分の理想を一から形にするという魅力があります。しかし、ゼロからの集患や採用、内装・設備など初期コストとリスクが大きい点は避けられません。承継開業は、開業直後からある程度の患者数やスタッフ体制が整っているため、経営面の安定性に優れている一方で、譲渡条件の交渉や既存スタッフとの信頼関係づくりなど、事前調整にしっかりと時間をかける必要があります。
いずれの方法を選ぶにしても、融資・税金・返済のタイミングや、現在の生活水準を踏まえた上でのキャッシュフロー計画を立案し、不安を減らして開業できるよう準備しておくことが大切です。さらに、親族承継でも第三者承継でも、不測の事態やトラブルを回避するために、早い段階で専門家のサポートを受けることを強くおすすめします。
医院開業を検討される先生方は、ぜひ今回の情報を参考に、ご自身のライフプランや理想とする医療体制を明確にしながら、納得のいく形でクリニックのスタートを切ってください。
クリニックの承継開業支援は、税理士法人日本経営
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