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診療所の経営・相続Q&A「扶養の範囲内で働く」

Q:常勤スタッフが退職するので、新たに募集が必要です。パート採用も含めて検討しているのですが、「扶養の範囲内」などの質問をよくされます。間違ったことを言ってしまわないように、ポイントを教えてください。


A:単にシフトの話だけでなく、院長の考え方をどう伝えるかも、重要なテーマに

「所得税」での扶養と「社会保険」での扶養

旦那さんの扶養の範囲で働きたい場合など、税金や社会保険について詳しいスタッフの方も少なくありません。よく分からないまま説明すると不審に思われたり、採用後に信用を失ったりしかねませんので、ご質問のとおり、最低限のポイントは理解しておく必要があるでしょう。今回、分かり易くするために、ご本人(奥様)が旦那さんの扶養に入っているという前提で、確認させていただきます。

まず、一言で「扶養」と言っても、「所得税」での扶養と「社会保険」での扶養の二種類があります。所得税の計算で、旦那さんの扶養に入るための上限が、いわゆる103万円の壁(交通費除く)と言われるものです。これが平成30年からは、一般的には150万円に拡大されました。一方、社会保険において旦那さんの扶養に入るための上限は、協会けんぽの場合、交通費込みで130万円と変更はありません(ご本人で社会保険に加入する要件を満たさずに130万円を超えてしまった場合は、国民健康保険と国民年金に加入することになるでしょう)。

このように「扶養の範囲内で働く」場合、少々複雑な話になる場合があるのです。ですので、旦那さんの社会保険の要件なども踏まえて当院ではどれだけの給与であれば大丈夫なのかを、ご本人に具体的に確認しておくことが、後々のトラブルの予防につながります(稀に、旦那さんの会社が扶養手当等の支給条件を「配偶者の収入が年間103万円以下」と設定している場合がありますので、注意が必要です)。もしご本人から「年収129万円までであれば大丈夫です」と言われた場合、仮に時給1,000円、徒歩通勤圏内とすると、逆算すると一週間につき25時間程度と試算されるのではないでしょうか。

単にシフトの話だけでなく、院長の考え方をどう伝えるか

常勤で週40時間働いてくれるスタッフと、扶養の範囲で25時間程度シフトに入ってくれるスタッフ。どちらが採用し易いかという地域柄の問題もありますが、経営側からすると、常勤とパートをどのように構成するかは、重要な考えどころです。常勤スタッフを中心に、責任ある仕事を任せ、急な退職はお互いにしないなど安定したチーム運用をされているケースもありますし、パートスタッフ中心に人手を厚くし、急な欠勤もお互いに助け合って柔軟にチーム運営をされているケースもあります。前者は賞与や社会保険料の負担などが発生しますし、後者はパートであっても責任とやりがいのある仕事をどう実現していくかという課題があります。

一方、働き方改革や、世帯所得・夫婦間の収入のバランスなどにより、働く側の意識も変わってきています。常勤とパートといった形で画一的に線引きするのではなく、院長がどのようにチームを構成し、運営していきたいと考えるのかによって、チームのあり方は大きく変わります。採用面接の際には、単にシフトの話だけでなく、院長の考え方をどう伝えるかも、重要なテーマになると考えます。

(2019年03月07日 医療事業部 主任 石田倫太郎)

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  • 事業形態 医療・介護
  • 種別 レポート

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