診療所の経営・相続Q&A「環境変化への対応」
Q:メディアでの報道や患者さん・スタッフとの対応の中で、これまでの価値観が大きく変化していることをひしひしと感じています。変化に順応するためには、これまでの取り組みや経験を、一度断捨離しなければならないものでしょうか。
A:現状が順調であれば、変えることはリスクであり、この状況を維持したいという思いは強くなります。しかし、かつて開業されたときにそうであったように、変化することを恐れず一歩踏み出せば、今までの経験が無駄になるということはありません。
65歳の院長から、「電子カルテに変えようと思う」
3年ほど前、担当先の院長より「電子カルテに変えようと思うがどう思うか?」という相談をいただきました。開業して25年、院長の年齢は65歳。日本経営グループで行っている「電子カルテのクラーク養成講座」をご案内した翌月のことでした。
新規開業であればともかく、既存のクリニックでは、まだまだ紙カルテが多いと思います。「電子カルテを導入すると、診察のスタイルが変わってしまう」「スタッフにとっても抵抗がある」などといったご意見も多く、私が同じ立場でも導入にはもう少し時間がかかるかもしれないと思っていました。その矢先に、65歳の院長からのご相談でしたので、正直驚きました。
患者さんに対してプロ集団でありたい
院長はこう言われました。「導入は大変かもしれないが、患者さんの待ち時間減少にも繋がり、効率化に繋がるでしょう。患者さんに対してプロ集団でありたいのです」。その後、すみやかに電子カルテを導入され、クラーク養成講座も受けていただきました。予測したとおり、導入前と導入後では診療スタイルがガラッと変わりました。しかし患者さんの待ち時間は短縮され、来患数は大幅に増加したのです。
院長がされたことは、電子カルテの導入だけではありません。“プロ集団を作りたい”というお言葉通り、新卒雇用、常勤スタッフの拡充など様々な取組みを行われました。「収入が増加したのはスタッフのおかげだ」と、スタッフにも気持ちよく還元されています。スタッフミーティングを行うことを提案するとすぐに実行され、「開院以来、最も良いメンバーで、医療の提供ができている」とおっしゃっていました。取組みから1年目・2年目、収入は年間15%アップし、3年目となった現在も増収は続いています。常勤スタッフが産休に入られることになり、開業以来、初めて産休制度を導入されたりもしています。
経験や歴史があるからこそ、新しい世界が見えてくる
私は先生から「社会の変化に順応することの大切さ」を学ばせていただきました。
今までのやり方を変えるとき、初めてのことにチャレンジするとき、誰しも不安に襲われると思います。現状が順調であれば、変えることはリスクであり、この状況を維持したいという思いは強くなります。しかし、社会が変化すると同時に患者さんからのニーズも明らかに変化しています。成長し続けるためには、かつて開業されたときにそうであったように、変化することを恐れない、一歩踏み出す勇気が必要なのだということではないでしょうか。
それは、今までの経験が無駄になるということではありません。先生のこれまでの経験と信念は、見事に開花したのだと思います。スタッフのこれまでの経験と信頼感が、見事に融合したのだと思います。経験や歴史があるからこそ、変化に順応したときに新しい世界が見えてくる。そのことを目の当たりにした事例となりました。
(2018年5月10日 医療事業部 主任 北野優子)
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