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韓国相続財産の名義変更/在日韓国人・帰化された方の相続vol.11

韓国相続財産の名義変更

本稿は、月刊実務経営ニュース2022.2「日韓の国際税務・相続詳解」記事です。

解説:日本経営ウィル税理士法人
顧問税理士・社会保険労務士・一級建築士・行政書士 親泊伸明
トータルソリューション事業部 李 榕濟

在日韓国人の尹(ユン)さんは、相続によりお父さんが韓国に所有していた不動産や預金を相続しました。韓国財産の名義変更はどうすれば良いでしょうか。注意すべきことがあれば教えてください。

相続により韓国財産を取得した場合、被相続人名義の不動産や預金等を相続人名義に変更する手続きが必要になります。

この手続きを「遺産分割」といいます。在日韓国人のように日本に住んでいる韓国籍の方に韓国財産の名義を変更することに制限はありませんが、名義変更をするための必要書類や手続きにおいて韓国の居住者と異なるところがあります。

また、相続人のうち日本籍に帰化した方についても必要書類が異なりますので、事前に確認をしておく必要があります。

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遺産分割

遺産分割の方法ですが、日本の場合も韓国の場合も同様の方法が定められています。

被相続人の遺言があり、遺産分割の方法について具体的に指示されている場合には、遺言に示された被相続人の意思が尊重され、その意思に基づいて分割を行うことになります。この遺言書による分割を「指定分割」といいます。

「遺言書が無い」場合、または、遺言書があっても遺産分割に関する具体的な指示がない場合には相続人全員で話し合って分割を決めることになります。

これを「協議分割」といい、この協議を遺産分割協議といいます。遺産分割協議は、相続人全員が参加して協議しなければならず、合意できれば遺産を分けることができます。

なお、遺産分割協議が終了すると、後日、争いや揉め事が起こらないように遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名し、実印による押印をしたうえ印鑑証明書を添付しますが、韓国籍の方の韓国の財産の名義変更には、日本の印鑑証明書は使えませんので、後述する別な手続きが必要となります。

相続人の間で遺産分割協議がまとまらない場合や、協議に応じようとしない相続人がいる場合には、家庭裁判所に対して、遺産分割の調停を申立て、裁判所を通じて話し合うこともできます。これを「調停分割」といいます。

調停分割とは、家庭裁判所の調停を利用して遺産分割の話し合いをする手続ですので、話し合いがまとまらない場合もあり、纏まらない場合には遺産分割調停は不成立となります。

遺産分割調停が不成立になると、遺産分割の審判となり裁判官(家事審判官)が遺産の分け方を決めることになります。これを「審判分割」といいます 。

このような「指定分割」、「協議分割」、「調停分割」、「審判分割」の制度は、韓国も日本と同様の制度を設けています。

なお、遺言の制度については、第4回(2021年7月号)で説明しておりますので、そちらを参照してください。

不動産の名義変更

不動産の名義変更については、韓国にも日本と同じような登記制度がありますので、被相続人名義の不動産を相続人名義に変える登記申請を行うことになります。

相続登記は、遺言書があるか否かによって手続きが異なりますので、遺言書がある場合とない場合に分けて説明します。

(1)遺言書がある場合

遺言書がある場合には、遺言書に基づいて名義変更を進めることになります。

第4回で説明したように、日本で日本の方式により作成された遺言書であったとしても、その遺言書(公正証書遺言書でも自筆証書遺言書でも)は法的に韓国でも有効です。

ただし、公正証書遺言以外の遺言書は、法律上の形式要件を満たしていないため無効になる場合もありますので、遺言書を作成する場合には、公正証書により作成しておくことが無難です。

また、自筆証書遺言書の場合ですが、家庭裁判所で検認を受けて検認調書を作成してもらう必要がありますが、日本の家庭裁判所で受けた検認手続では、遺言の執行において、韓国民法1091条第1項が「遺言の証書若しくは録音を保管している者又はこれを発見した者は、遺言者の死亡後、遅滞なく、法院に提出してその検認を請求しなければならない。」と定められているため、韓国の家庭法院の検認を受けないと韓国財産の名義変更等の執行はできないことになります。

なお、日本の家庭裁判所の検認手続きと異なり、韓国では、検認調書に他の相続人らの異議が記載されている場合、相続人らの過半数以上の同意がないと登記変更をすることができない点などで日本と異なっています。

①韓国の財産明細が書かれている日本の公正証書遺言書の場合

日本の公正証書遺言書があり、その遺言書に韓国財産が特定できるように明細が記載されている場合、具体的には、不動産であれば不動産の種類(地目や面積)や所在地、銀行預金であれば銀行名や支店名及び口座番号などが、記載されていれば、既に、述べたように韓国でも有効な遺言書ですので、財産の名義を変更することができます。
日本の公証役場で作成した公正証書遺言書についてはアポスティーユを取得する必要があります。
アポスティーユとは日本の官公署,自治体等が発行する公文書に対する外務省の証明のことです。
また、公正証書遺言書を翻訳して翻訳者が署名をする必要がありますが、韓国の登記所や担当する登記官によっては領事館の確認書類(領事認証)を求められる場合もあります。
実務的には、登記所や担当する登記官によって求められる書類が異なりますので、事前に確認をしながら進めていく必要があります。
なお、日本の公証役場で作成した公正証書遺言書であって法的には有効なものであったとしても、韓国の不動産登記法、会社法、銀行実務に関する情報や知識、翻訳の正確さが求められるため、実務上はリスクがあります。


そのため、韓国財産の相続後の名義変更や登記のことも考えれば、韓国内の財産については韓国で公正証書遺言書を作成しておくことが無難です。

②韓国の財産明細が書かれていない日本の公正証書遺言書の場合

日本の公正証書遺言書があって、それが法的には有効なものであったとしても、韓国の財産についての明細の記載がない遺言書は、相続財産の範囲が特定できず、遺言の執行はできないとされており、また、韓国の公正証書遺言書でも同様の取扱いをしていることから、相続登記や預金口座の名義変更などの遺言の執行は難しいと考えられます。
例えば、「韓国にある財産の全てを配偶者に相続させる。」というような記載では、執行する韓国の登記所や銀行の実務者が補完資料を要請したり、裁判の判決などがないことを理由に執行を拒否する可能性があります。
そのような場合には、補完する書類などを用意していくことになりますが、それでも登記が出来ない場合には、別途韓国の裁判所に、裁判を提起したうえ、判決を得て名義変更をすることになります。

なお、このような手間を考えますと親族で争いがない場合には、遺言書通りの内容で、改めて遺産分割協議書を作成し直す方が手間を省略することができスムーズに手続きが出来ることになります。

③自筆証書遺言書の場合

自筆証書遺言書については、既に述べたように、日本の家庭裁判所における検認手続では、遺言執行はできませんので、改めて、韓国の家庭法院で検認手続を行う必要がありますが、実際問題として日本語で書かれた遺言書で検認手続が受けられるのか、また、相続人が韓国の裁判所に出頭できるのかなど、多くの実務的な問題がありますので、自筆証書遺言書では韓国財産の名義変更は難しいものと思われます。

そのため、韓国の裁判所に、裁判を提起したうえ、判決を得て名義変更をするような手続きを行うことになりますが、親族で争いがない場合は、遺言書通りの内容で、改めて遺産分割協議書を作成し直す方が手間を省略することができます。

(2)遺産分割協議書による場合

遺言書がない場合には、相続人間で話し合って誰がどの財産を取得するのかを決めます(協議分割)。

遺産分割協議書は、法定相続人全員の合意がないと成立しません。

合意ができますと合意の証明として遺産分割協議書を作成して各人が実印で押印し、印鑑証明書を添付することになっています。

韓国財産の名義変更については、日本の印鑑証明書は韓国籍の相続人には有効とされないため、韓国籍の相続人については、領事館において、領事の面前で、遺産分割協議書に署名を行い領事認証をもらう必要があります。

領事認証を得るためには、韓国籍の相続人の方が、在留カードや日本の印鑑証明書・住民票を本人確認のために揃えて、領事の目前で遺産分割協議書に署名捺印をして領事認証をもらいます。

本人確認が必要ですので必ず本人が訪問しなければなりません。後ほど説明しますが、韓国相続財産のうち、不動産がある場合には在外国民登録謄本が必要となります。
領事館を訪問した際に在外国民登録もしておくことをお勧めします。

なお、遺産分割協議書の署名に領事認証ができるのは、韓国籍の相続人に対してだけです。

そのため、相続人のうち日本籍に帰化した方がおられる場合には、領事認証をもらうことができませんので、遺産分割協議書に署名捺印をして、印鑑証明書を付けます。

印鑑証明書にはアポスティーユを取得して翻訳文と翻訳者による翻訳証明を付けます。なお、実務的には登記所や担当する登記官などによって、必要とされる書類が異なり、翻訳について領事認証を求められる場合もあります。

また、遺産分割協議書が日本語で書かれている場合には、遺産分割協議書を翻訳して翻訳者による翻訳証明を付けます。

翻訳について領事認証が必要とされる場合もあります。

なお、遺産分割協議書を韓国語で作成した場合は、翻訳に関する手続きを省略することができます。

なお、相続人に未成年者がいる場合、韓国財産の遺産分割のためには韓国の家庭法院に特別代理人を選任して貰う必要があります。

なお、日本の家庭裁判所で選任して貰った特別代理人については、韓国では認められません。
その理由は、韓国民法第921条が「未成年者の特別代理人の選任を法院に請求しなければならない」と定めているためです。
そのため、韓国の裁判所に特別代理人を選任してもらう必要があります。

(3)不動産登記用登録番号について

韓国の不動産の名義変更をするためには、「不動産登記用登録番号」の申請が必要です。

韓国の居住者には住民登録番号(日本のマイナンバーのようなもの)が付与されていますが、住民登録番号がない在日韓国人が初めて不動産登記を行う場合は、韓国内裁判所(物件管轄登記所)や出入国管理局に申請して不動産登記用登録番号を付与してもらいます。

不動産登記用登録は一人に一つの番号が付与されます。
不動産登記用登録番号の申請には、申請書、パスポート、在外国民登録謄本が必要です。

在外国民登録謄本は、個人の証明書であり住民票の役割を果たす書類で、領事館に在外国民登録をしたうえ発行してもらいます。

韓国では、日本の司法書士に相当する法務士が名義変更の手続きを行います。

上記の必要書類と被相続人の死亡が記載された基本証明書、家族関係証明書、除籍謄本、委任状などを揃えて法務士に依頼すれば、韓国に行かなくても日本で名義変更をすることができます。

不動産の登記に関しては、登記所及び担当する登記官により要求される書類に違いがあります。(また、同様のことは預金口座の名義変更についても、銀行や支店及び担当者により違いがあります。)実務的には、事前に必要とされる書類を確認しながら進めることが重要です。

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相続した不動産を売却する場合

相続した不動産を売却する場合には、次のような手続きが必要です。

① 不動産売買契約書の作成

不動産の名義変更と同様、不動産売買契約書の作成業務も法務士が行います。

②譲渡所得税申告及び納付

韓国では、譲渡所得税の申告・納付が終わらないと不動産の名義変更ができません。
韓国の譲渡所得税の申告・納付期限は、譲渡日の属する月の末日から2ヵ月以内です。
譲渡所得税についてですが、韓国では相続した不動産を6ヵ月以内に売買すると、当該譲渡価額が相続財産の時価とされますので、この売買価額により相続財産の評価が行われます。
譲渡益は、譲渡価額から取得価額と必要経費を差し引いて計算しますが、韓国では相続財産については相続財産評価額が取得価額となります。
従って、相続した不動産を相続開始日から6ヵ月以内に譲渡する場合、譲渡価額と取得価額が同額となり、韓国では譲渡益が発生しないこととなります。
ただし、相続した不動産を売買価額により評価した場合、公示地価で評価した金額より相続税が増加する可能性があります。
従って、相続税と譲渡所得税を両方考慮して相続開始日から6ヵ月以内に譲渡するか否かを決める必要があります。

なお、日本の居住者の場合、韓国の不動産を売却すると日本でも譲渡所得税の課税を受けます。
日本では韓国のように相続時の評価額を取得価額に変更する規定はありませんので、被相続人が低額で取得した不動産を売却すると日本では譲渡所得税の負担が生じることになります。

③売主の不動産売却用印鑑登録、売却名義変更

在日韓国人のように韓国籍の方の日本の印鑑証明書は韓国では通用しません。
韓国内役所で不動産売却用印鑑登録する必要があります。
不動産売却用の印鑑証明書を発給してもらうためには、譲渡所得税の領収書の提出が必要です。
日本籍の方は、日本の印鑑証明書にアポスティーユを付けて提出することになります。

④税務署による不動産売却資金確認書の発行

不動産の売却代金を日本に送金する場合は、税務署で「不動産売却資金確認書」を発給してもらわなければなりません。
不動産売買契約書、売却代金が入金された通帳、譲渡所得税申告書や納付領収書などを提出する必要があります。

⑤日本への送金

税務署から交付を受けた「不動産売却資金確認書」があれば、「不動産売却資金確認書」に記載された金額の範囲内で日本へ送金することができます。
韓国では、海外送金は厳しく管理されていますので、海外送金をするためには、「取引外国為替銀行」の指定手続きをする必要があります。
「取引外国為替銀行」を指定することにより、全ての海外送金取引が保存・管理されることになります。

また、相続人が相続財産の処分代金を日本へ送金する場合には、日本にある本人名義の口座にしか送金できないことになっています。

⑥ 韓国の在外同胞の国内財産搬出制度について

韓国には在外同胞の国内財産搬出制度があります。
韓国の国民で外国の永住権を取得した者もしくは外国国籍を取得した者が本人名義の財産を搬出できるようにした制度です。
「外国為替取引規定」では、在外同胞を海外移住法による海外移住者として外国国籍を取得した者、韓国の国民として外国の永住権もしくはこれに準ずる資格を取得した者と区分しています。

搬出できる財産には、不動産売却代金、証券売却代金、本人名義預金もしくは本人名義不動産の敷金があります。
搬出可能金額の制限はありませんが、生涯累積金額が10万ドル(約1100万円)を超える場合は、資金出処確認書の提出の必要があります。

預金や有価証券の名義変更及び日本への送金

預金や有価証券の名義変更についても相続人の確認や名義変更に必要とされる書類は不動産の場合と基本的に同様です。

名義変更に関する案内は各金融機関のホームページでも確認できますが、在日韓国人のように韓国の非居住者に関する手続きについては詳しく案内されていません。

基本的には、相続人の身分証明書、被相続人の家族関係証明書、基本証明書、除籍謄本、相続人全員の委任状などが必要です。

また、税務署から相続した預金等について「資金出処確認書」を発給してもらって銀行で手続を行えば、日本への送金することができます。

名義変更及び日本へ送金する場合、各支店により求められる書類が異なる場合がありますので、手続きを行う際は、預金口座を開設した支店に事前に確認することをお勧めします。

日本経営ウィル税理士法人

韓国税務担当 顧問税理士 親泊伸明
韓国税務担当 李 榕濟(イ・ヨンゼ)

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

日韓国際相続に関するご相談・お問い合わせ
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担当:李 榕濟(イ・ヨンゼ)
受付時間9:30〜17:30(土・日・祝日除く)

  • 事業形態 事業・国際税務
    相続・オーナー
  • 種別 レポート

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