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企業財務レポート「予実分析で萌芽(ほうが)に向けた取り組みを」

予実分析で萌芽(ほうが)に向けた取り組みを

解説:日本経営ウィル税理士法人
公認会計士 西村 公宏


先日、家族で2019年末の紅白歌合戦を見ていました。3歳になる娘はパプリカをうたいながらキャッキャ喜び、一方で私は髭男やRADWINPSの曲を聴き、音楽ってやっぱり素晴らしいなぁと感じていた次第です。

紅白を見ていた際、隔世の感を感じざるを得なかったのが、その中での2020年像です。紅白の中で2020年は、オリンピックのある明るく記念すべき年として描かれておりました。確かに当時は私もそう思っておりました。たった半年前の話です。あれからもう世界は大きく変容してしまいました。

予算・計画なんて立てても意味がないのか

理想と現実のギャップを定量化する

年末年始に多くの方は、今年一年の夢を描き、計画を立てられたことと思います。ですがその計画は、多くの人にとってもはや絵空事になってしまっているかもしれません。

今回のような環境の激変が起こると必ず、こういう発言が聞こえてきます。

「だから、予算・計画なんて立てても意味がないのだ」と。

実際そう思われている方が少なからずいるのではないでしょうか。

私自身も経営者からこのようなご意見をいただきます。その時、私は力強く「No!」と言わせていただくのですが、その主な理由は、予算・計画がなければ、変化の可視化・数値化ができないからです。予算作成の重要な理由として、理想と現実のギャップを定量化することにあります。

例えば、ビジネスを急拡大させているホテル業を考えてみてください。オリンピックを見込んで2019年にホテルをたくさん建設していた場合、業績の前年同期比較には何ら意味を持ちません。ホテルの新設に伴う利益計画がないと、想定よりどれぐらい現実が悪くなっているのかを数値として把握できず、なんとなく「悪くなった」という直感的な判断しかできなくなってしまいます。その結果、大雑把な意思決定しかできなくなってしまうのです。

きめ細やかな計画が将来の意思決定に大きな力を与える

今回のような環境が激変した苦境にこそ、きめ細やかな計画が将来の意思決定に大きな力を与えてくれます。各ホテルの稼働率・人件費等の固定費を見積り、どれぐらいの稼働率まで回復すれば損益分岐点を突破できるのか、想定される稼働率でどこまで固定費を削る必要があるのか、もしくは今後のキャッシュアウトの発生見込みを考えれば、どのホテルを譲渡しないと資金ショートしてしまうのか、場合によっては、金融機関等の支援が必須なので急ぎリスケの相談をしなければならないかとか、極論、早めに民事再生法等の適用をしないと廃業せざるを得ない等、様々なシチュエーションが考えられます。

このような重要な意思決定を一定の裏付けをもって行う為には、予実分析が必須になってくるのです。予実分析は、目標達成する為の最短路を探すために使用するだけではありません。環境が大きく変わってしまい、年始の計画が画餅になってしまうような時にこそ、現状を正確に把握するツールとして予算策定が必須となります。

萌芽更新、企業にとって「根」とは何か

林業で、萌芽更新(ほうがこうしん)という言葉があります。これは、地にしっかり根を下ろしている樹木は、たとえ伐採し切り株になったとしても、芽生えの季節に切り株から新芽が生じ、樹木として蘇生していくというものです。切り株から萌芽が生じる為に必要なのは、芽生えに必要な環境条件が揃うだけでなく、その切り株がしっかりと地に根を下ろし、水分を吸い上げる力が残っている必要があります。

では、企業にとって「根」とは何が該当するでしょうか。それは、企業文化や社風等、その会社が創業から培ってきた企業環境です。自らの「ルーツ」を探り、自己のミッションをしっかり把握できていれば、例え「切り株」になってしまっても、生育に必要な環境が揃えば必ず萌芽の時期がやってきます。

劇的な環境変化にも負けず企業を永続させていくために今求められているのは、将来を見据えた迅速な意思決定です。精緻な予算との予実分析により、多くの企業が永続していくことを私は願ってやみません。

経営者の伴走役として私たちは、予算策定に関するアドバイスをより提案していく所存です。

レポートの執筆者

西村 公宏(にしむら きみひろ)
日本経営ウィル税理士法人
公認会計士

2006年公認会計士試験合格後大手監査法人に入社、上場企業等の会計監査業務に従事する。2010年公認会計士登録。2017年にウィル税理士法人(現:日本経営ウィル税理士法人)に入社し、上場企業から零細企業まで幅広い企業の税務・会計顧問業務に携わる。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

  • 事業形態 事業・国際税務
  • 種別 レポート

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