都心のタワーマンションを揉めずに相続させる/レクシード相続相談事例vol.001
タワーマンションを長女と長男にどう相続させるか
都心のタワーマンション、それぞれ時価1億円ほど
私は現在70歳。長年、上場会社の役員として勤務し、都心のタワーマンションを3軒(A、B、C)所有しています。それぞれの時価は1億円程です。
マンションA | 私と妻の自宅ですが、長女家族も一緒に暮らしています |
マンションB | 長男とその嫁が暮らしています |
マンションC | 賃貸用として、第三者に貸し付けています |
- 長女は離婚しており、子供を1人で育てているため、生活費は私たちが僅かですが援助しています。
- 長男夫婦は、生活力はありますが子供がいません。
そこで、私たち夫婦は、マンションAとマンションCを長女に相続させ、マンションBは長男に相続させようと考えていました。
何も決めなければ、長女と長男で揉める可能性が
しかし、最近になって長男が、長男の嫁を私たちの養子にできないかと言い始めました。また、Cの管理にもいろいろと口を出すようになってきました。どうやら、長男に万一のことがあった場合の、長男の嫁の生活を心配しているようです。
また、長女は長男の嫁に遠慮があるようで、長女からも、遺産の分割についてはきちんと決めておいて欲しいと何度も言われています。
マンション以外に預金は3,000万円程ありますが、将来の生活や介護費なども考えると夫婦で全て使い切ってしまうことになると思います。私も妻も、介護が必要になったら施設に入居したいと思っているからです。
このままでは、遺産分割についてきちんと決めておかないと、長女と長男で揉めそうです。
相続税額がどれくらいになるか見当がつかない
もちろん、困ったときにはマンションCを売却することもできるでしょう。
しかし、そもそも現金・預金で持っていると使ってしまうかもしれないので、値は下がらないだろうと思い、あえてマンションに投資したという経緯があります。
その他の財産としては、私が被保険者となっている生命保険が1000万円あるくらいです。
このような状況ですが、相続税はどれくらいになりますか。生命保険だけで支払えそうでしょうか。また、遺産分割に備えてどのような対策をしておくべきですか。
専門家として何か良いアドバイスをいただけないでしょうか。
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相続サロン「レクシード」の相続専門税理士、小林幸生(こばやし さちお)が、ご回答します。
ご相談のポイントは、「相続税がどれくらいの負担になるのか」「ご家族様の御意見も踏まえて遺産分割に備えて何をしておけばよいのか」ということですね。ご自身の生活を維持しながら、お子様(長女、長男)の期待にどれだけ応えられるか、将来揉めるような結果にならないかなどご不安も多く、かなりお困りのようです。
現状での相続税額を試算する
想いの共有(家族会議の開催)
将来の相続を考えるときに最も重要なことは、相談者様を含め、ご家族がこれからどのような人生を送っていきたいのか、どのような想いで、どれだけの財産を引き継いでいきたいかということを共有しておくということです。
相続税の対策をどんなに行ったところで、税負担には対応できるかもしれませんが相続の根本的な問題解決にはなりませんから、まずはみなさんとの想いの共有が最重要です。
ですから、まずはご家族でよく相談し、想いを共有する場(家族会議)を設けることをお勧めします。
ライフプラン等の作成
家族会議の際には、守りたい生活水準や、守りたい資産の承継方法を話し合うことになりますが、より具体的な話し合いをしていくためには、ライフプランの作成とキャッシュフロー表の作成が重要です。
各種ライフイベントの支出額については、公的な統計も出ていますので、参考としていただきながら、出来る限り中長期的な目線で余裕をもったライフプランを作成することをお勧めします。
現状での相続税額を試算する
これらを踏まえたうえで、「現状の分析」を行うことになります。
財産の額は、不動産(マンション)3億円、預金3千万円、生命保険1千万円、合計3億4千万円とうことですが、預金は使い切る予定とのことですので、不動産と生命保険をもとに相続税額を計算すると、3,460万円となります。
ここで重要なことは、配偶者様の二次相続まで考慮に入れることです。二次相続まで入れると、相続税は合計で約5,300万円となりそうです。
ちなみに相続税額は下記のように計算しています。
相続税の計算(概算)
- 法定相続人は、配偶者、長女、長男の3名
- 基礎控除は4,800万円(3,000万円+600万円×3人)
- 相続財産の額は、不動産が3億円と生命保険1千万円(生命保険は、1,500万円(500万円×3人)まで非課税となりますので、実際には不動産の3億円のみが相続税の対象)
- 3億円(財産額)- 4,800万円(基礎控除額)=252百万円(課税対象額)
- 課税対象額に対する税額(配偶者が財産の2分の1を取得するものとして配偶者控除を適用した場合の税額)3,460万円
※マンションは時価で仮計算しています(小規模宅地の特例などは勘案していません)
相続税に詳しい税理士のセカンドオピニオン
相続資金・遺産分割対策を検討する
納税資金が大きく不足する
ご相談内容からすると、納税資金は大きく不足しています。また、今後のライフプラン等をきちんと考えると、預金が不足する可能性があります。
したがって、まずは納税資金と将来必要となる生活資金の確保を最優先に考えましょう。
不動産売却を検討する
生活資金を確保するために最も現実的な対応策は、タワーマンションの一つを売却することです。不動産の購入は相続税対策になるかもしれませんが、それは余裕資金がある場合の話です。
ただし、賃料の水準によっては売却するよりも賃貸を継続して賃料収入を得る方が有利な場合もあります。あるいは、不動産を所有したまま、不動産を担保に借入をするということも考えられます。どちらが有利かは、より詳しく試算する必要があります。
ちなみに、不動産の譲渡等により得た資金は生活費や医療費に使用する予定のものですので、すぐ現金化できるもので運用する必要があります。ただし、預金だけでは将来のインフレリスクがあります。債券、有価証券、保険などにバランスよく分散投資し運用することをお薦めします。
養子縁組(普通養子縁組)を検討する
ご長男様が、奥様とご両親の養子縁組を望んでいるようですが、養子縁組には次のようなメリット・デメリッがあります。ご家族や関係する専門家と相談しながら慎重に検討することをお薦めします。
養子縁組のメリット・デメリット
メリット
- 相続人と同等の立場で権利義務を承継できます
- 相続税の基礎控除額が増える
- 生命保険金の非課税限度額が増える
- 死亡退職金の非課税限度額が増える
- 相続税の総額の計算において有利に働くことがある
デメリット
- 相続争いがおこりやすくなる
- 養子の親族に財産が引き継がれる可能性がある
遺言の検討、家族信託という選択肢
家族会議の結果を踏まえ、今後、どのように生活し財産をどのように承継していくかが決まったら、遺言書の作成も検討しましょう。
遺言書を作成することで、
- 残された家族が相続でもめる可能性が低くなる
- 遺産分割協議を行わなくて良い
- 法定相続人以外にも財産を渡すことができる
- ご家族が故人の想いを確認することができる
などのメリットがあります。
遺言によれば、養子縁組によらずご長男様の奥様に財産を渡すこともできますし、相続争いを抑止することも可能です。また、何よりもご相談者様の想いをご家族に伝えることができるよう想いを記載することも可能となります。
他方、遺言書と同様の効果が認められるもので家族信託というものもあります。詳細は割愛しますが、家族信託であればご長男の奥様に財産を渡した後、ご長男の奥様が亡くなられた際にご長女のお子様にその財産を渡してあげるという取り決めも可能です。
遺言書の作成、家族信託の設定ともに、より確実なものを作成するためには専門家のアドバイスが重要です。どのようなものを作成したいかという想いを明確にした上で、一度専門家と相談してみることをお薦めします。
配偶者居住権の設定を検討する
遺言書を作成する場合には、相談者様の奥様の生活の安定と生活費を十分に確保するため、配偶者居住権を設定することをお薦めします。
例えば、自宅に住み続けられる権利を奥様に、その自宅の所有権をご長女様にお渡しすることで、奥様が安心して生活できる環境を手に入れられると共に、必要な生活資金をより多く相続することも可能です。
配偶者居住権は、遺言書に記載するか遺産分割協議により設定する場合にしか認められませんし、設定のためのさまざまな要件等も有ります。設定を検討される場合は、一度専門家と相談してみることをお薦めします。
最後に、ご相談者様の想いは、ご家族がいつまでも仲良くすること、そのために円満な相続が行われること、相続税の納税が無理なく行えることに尽きるのではないでしょうか。
ご家族でよくご相談すれば、必要な資金を確保した上で、遺言や信託を活用して想いを叶えることは可能です。これまで貢献してくれた部分、助けてもらった部分などは互いに感謝の気持ちをもって、きちんと考慮しながら話を進めることが重要です。
話し合いには、客観的な立場の第三者が居た方がうまくまとまることもあります。そのような際は、ぜひ相続サロン「レクシード」をご利用ください。みなさまの想いを実現するために、できる限りのお手伝いをさせていただきます。
家族の想いを繋ぐ空間
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※本稿は、実際の事例を参考にモデル化し、執筆時点における一般的な内容を分かりやすく解説したものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。