親子承継の鍵は「第二創業」~覚悟をもった改革で事業承継の壁を乗り越える~
親子承継の鍵は「第二創業」
~覚悟をもった改革で事業承継の壁を乗り越える~
解説:日本経営ウィル税理士法人
公認会計士 西村 公宏
ご相談事例
天才肌経営からファクトベース経営へ生まれ変わりたい
父は創業社長で、どのお客様にどんな提案をすべきかを瞬時に見抜くことができる、月次の試算表を見なくても肌で会社の状況が理解できる、いわば天才肌の経営者でした。
数年前に副社長に就任した私には、父の真似など到底できません。
私は経理部門に、「数字が毎月きちんと出てくるようにしてほしい」、毎日パラパラと提出される書類や請求書への決裁に膨大な時間がかかるので「仕組みを変えてほしい」と、何度も要求しました。
しかし、何一つ改善されないまま、経理担当者より退職の申し出がありました。
数字が毎月上がってくる、決裁書類がきちんと決裁者が分かるように回ってくる。
そのような体制を作りたいのですが、どこからテコ入れしたらよいでしょうか。
他企業での改善事例などがあれば教えてください。
親子承継の共通の悩み、創業者と会社の一体化
このようなご相談は、中小企業の創業者からの代替わりの際によくいただきます。
創業者社長は、ゼロから事業を立ち上げてきた経緯があるため、会社のこと、事業のこと、隅から隅まで自己と会社組織が一体化しています。そのため、会社内でどのような事が起こっているのか、かなりの確度をもって想定されています。
月次の会計報告は、「答え合わせ」をしているにすぎず、 意思決定も、ご自身の直感と大きな乖離がありません。
創業者の模倣では解決できない、二代目も「創業」が必要
ご相談者のように、多くの二代目経営者は、創業者の模倣から入られますが、それでは創業者である父のようには上手くいきません。
なぜなら、創業者の経営手法は、自身の起業体験があって初めてできる芸当だからです。
また、従業員も、創業者社長があっての働き方に最適化している場合が多いのです。そのため、創業者社長が要望しない要求を突きつけると、その従業員には強いストレスとなります。経理担当者が退職を申し出るのも無理はありません。
それでは、どうすればよいのでしょうか。 この相談者に真っ先にお願いしたこと、それを一言で言いますと、
『イチから会社を改めてご自身で創業してください。』
もちろん、会社を退職して、別の会社を創業するわけではありません。同じぐらいの情熱で会社を作り直す覚悟を持ってください、という意味での「創業」です。
ご相談を受けた会社は、創業者である父が社長ではないと運営できない体制・企業風土になっていました。この体制を維持する限り、事業承継はかないません。
荒療治にはなりますが、組織を根本から見直すしかないのです。現在の組織の中で「要求」だけでは、不協和音を生み出し、「創業社長の方がよかった」という不平不満が組織内に充満するだけになってしまいます。
天才肌経営から仕組みで経営する組織への変革が必要
また、併せてお願いしたことは、仕組みによる経営が出来る組織体制・組織風土にしてくださいということです。
創業者である父親は、天才的な感性に基づく意思決定をしていたのですが、この「感性」は分析することで、一定の法則性が見えてきます。これを仕組みに落とし込むことで、創業者の「肌感覚」が、客観的な数値へと見える化していきます。
例えば、小売店の場合、天才肌の創業者は現場を見るだけで、売上状況や在庫状況、顧客満足状況や従業員のモチベーション等を感性で分析・理解します。
次に、広告宣伝や購買の方針、店舗運営の問題点の指導、従業員のケアまで見抜き、矢継ぎ早に指示をしてしまいます。
当然、このような芸当の模倣は極めて難しいのですが、肌感覚のチェックには必ず勘所があります。それは主要商品の在庫数から逆算する売上想定、レジ待ちの行列の長さ、駐車場の混雑度、顧客や従業員の表情など様々です。
中には、定性的性質が強く、数値化は難しいケースもあります。しかし、定量化できるものについては、それらを見える化し、定期的にチェックする体制を構築していけば、創業者と似た意思決定が、仕組みで疑似的にできるようになるのです。
経理担当者も「二代目」が担おう
ただ、二代目社長が直接改革を行うと、結局創業者と同じ道を歩んでしまう恐れがあります。そのため、従業員に改革を任せる必要がありますが、注意すべきなのは、この改革担当者をベテランよりも若手に任すべきだという点です。
なぜなら、ベテラン従業員は、よくも悪くも創業者と一体化してしまっているからです。相談者の場合、経理担当者が退職を願い出てしまったのですが、この担当者も創業者の意を汲んだ働き方しか出来ない体質になっていたのです。
そのため、改革を行うのであれば、経理担当者も「経理担当者創業者」ではなく「経理担当者二代目」、二代目の相談者と年齢が近くて若く、改革意欲の強い人間に任せた方がうまくいくとお伝えしました。
組織の生まれ変わりにはどうしても痛みを伴いますが、そこを乗り越えれば、必ずうまく仕組みが機能するようになるのです。
以上が、私がご相談者にお伝えした内容の要約になります。
痛みを恐れずに、改革を進めよう
改革には困難が伴うため、相談者はかなり苦労されていますが、徐々に改善の息吹が見えてきました。
私たちは、この改革が成功するよう、専門のコンサルタントがサポートしています。円滑な改革になるよう、創業者と相談者の意見調整も欠かせません。
このように、記帳代行業務や申告書作成業務等とは別に、より企業が成長できるよう、付加価値の向上や経営改善のサポートを望まれる経営者様も増えてきました。
経営のコンサルティングを望まれる場合は、是非ともお声がけください。
レポートの執筆者
西村 公宏(にしむら きみひろ)
日本経営ウィル税理士法人
公認会計士
2006年公認会計士試験合格後大手監査法人に入社、上場企業等の会計監査業務に従事する。2010年公認会計士登録。2017年にウィル税理士法人(現:日本経営ウィル税理士法人)に入社し、上場企業から零細企業まで幅広い企業の税務・会計顧問業務に携わる。
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。
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