社会福祉法人の会計とは|企業会計との違いと経理担当者が押さえるべき5つのポイント
社会福祉法人の会計とは|企業会計との違いと経理担当者が押さえるべき5つのポイント
解説:税理士法人日本経営
門原 郁洋
はじめに
社会福祉法人の会計業務では、企業会計とは異なる独自の基準への対応が求められます。「長年経理を担ってきた担当者が退職してしまう」「事業拡大で業務量が増えたが、社会福祉法人会計に詳しい人材を採用できない」――こうしたお悩みを抱える法人さまは、決して少なくありません。
社会福祉法人会計には、企業会計にはない「資金収支計算書」「一取引二仕訳」「区分経理」など、独自のルールが数多く存在します。これらは単なる技術的な違いではなく、公益性と説明責任を担保するための制度設計上の必然です。
本記事では、社会福祉法人会計と企業会計の根本的な違いを整理したうえで、経理担当者が実務で押さえておくべき5つのポイントを、具体的な仕訳例を交えて解説します。同時に、専門性の高い会計業務を効率化するための具体的な選択肢についてもご紹介します。
病院会計と社会福祉法人会計の両面に精通した専門家がグループの永続的発展を実現する、次世代の経営基盤構築をサポートいたします。
この記事の目次
- 社会福祉法人会計と企業会計の根本的な相違点
- 経理担当者が押さえておきたい5つの実務ポイント(仕訳例つき)
- 社会福祉法人会計の現場で生じやすい課題と負担
- 専門性の高い会計業務を効率化する具体的な方法
1.社会福祉法人会計と企業会計の根本的な違い
社会福祉法人の会計は、目的・根拠法令・計算書類の構成において、企業会計と大きく異なります。両者の違いを理解することが、正確な経理実務の出発点となります。
社会福祉法人会計の目的と特徴
社会福祉法人会計は、公費を基盤とした公益的な事業の透明性と説明責任を確保するために設計された会計制度です。社会福祉法人会計基準は厚生労働省令として整備されており、社会福祉法人が従うべき会計ルールとして位置づけられています(※01)。
株主や投資家への利益情報開示を主な目的とする企業会計とは異なり、社会福祉法人会計は利用者や国民一般に対して事業の活動成果を報告することが主な目的となっています。この根本的な目的の違いが、計算書類の構成や記帳方法の差異を生み出しています。
| 財務・会計の論点 | 医療法人 | 社会福祉法人 |
|---|---|---|
| 適用会計基準 | 病院会計準則 ほか | 社会福祉法人会計基準 |
| 損益の表示 | 損益計算書 | 事業活動計算書 |
| 資金の流れ | キャッシュフロー計算書 | 資金収支計算書 |
| 管理単位 | 施設別・事業別 | 拠点区分・サービス区分 |
| 利益処分の自由度 | 比較的高い(配当は不可) | 厳格(内部留保・使途制限あり) |
企業会計との会計処理上の相違点
企業会計は、会社法や金融商品取引法などの法令に加え、企業会計原則や企業会計基準といった会計慣行を踏まえて運用されており、勘定科目や様式の設定には一定の幅があります。一方、社会福祉法人会計は、関係法令および会計基準に基づいた処理が求められる点が大きく異なります(※02)。
また、企業会計が制度会計と管理会計を分離しているのに対し、社会福祉法人会計は管理会計の要素まで制度会計の枠組みに組み込まれている点も特徴です。以下の表で主な相違点を整理します。
| 比較項目 | 企業会計 | 社会福祉法人会計 |
|---|---|---|
| 根拠法令 | 法令と会計慣行(一定の柔軟性あり) | 省令(様式・科目まで規定) |
| 主な目的 | 株主・投資家への利益報告 | 利用者・国民への説明責任 |
| 主な計算書類 | 貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書 | 貸借対照表・事業活動計算書・資金収支計算書 |
| 勘定科目 | 法人が自由に設定可能 | 会計基準別表で固定 |
2.社会福祉法人の会計で押さえておきたい5つのポイント
社会福祉法人の経理担当者が実務で押さえておくべき5つの重要ポイントを、具体例を交えて解説します。これらは企業会計の経験だけでは対応が難しい、社会福祉法人会計ならではの論点です。
ポイント1:資金収支計算書の作成
資金収支計算書は、1年間の資金の流れと使われ方を表す計算書であり、「事業活動による収支」「施設整備等による収支」「その他の活動による収支」の3つの区分から構成されます。未収や未払も資金の概念に含まれる点で、企業会計のキャッシュフロー計算書とは性格が異なるとされています(※03)。
さらに、決算額と予算額を並べて記載することが求められており、予算との対比を通じて経営方針の妥当性を検証できる構造になっています。健全な法人運営では、事業活動資金収支差額がプラスで推移することが期待されます。
ポイント2:事業活動計算書の理解
事業活動計算書は、企業会計の損益計算書に相当する書類ですが、構成は大きく異なります。一般的に「サービス活動増減の部」「サービス活動外増減の部」「特別増減の部」「繰越活動増減差額の部」といった区分で構成され、純資産の増減を明瞭に表示する役割を担っています(※04)。
特徴的なのは、公費で取得した固定資産に対応する「国庫補助金等特別積立金取崩額」が、サービス活動費用の控除項目として計上される点です。これは公費で取得した固定資産に対する特別な処理であり、企業会計には存在しません。最終的に当期活動増減差額を算出し、繰越活動増減差額として翌期に引き継ぎます。
ポイント3:一取引二仕訳という独自の記帳ルール
社会福祉法人会計で最も特徴的なのが、「一取引二仕訳」と呼ばれる独自の記帳方法です。これは、1つの取引に対して、貸借対照表・事業活動計算書側の仕訳と、資金収支計算書側の仕訳を並行して起票する運用です(※05)。
具体的な仕訳例で見てみましょう。たとえば「介護報酬100万円が普通預金に入金された」というケースでは、以下のように2系統の仕訳を同時に起こします。
| 仕訳の種類 | 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 貸借対照表・ 事業活動計算書 |
現金預金 | 1,000,000 | 介護保険事業収益 | 1,000,000 |
| 資金収支計算書 | 支払資金 | 1,000,000 | 介護保険事業収入 | 1,000,000 |
1つの経済事象に対して2系統の記録を並行して行うこの仕組みは、企業会計の経験者にとって最も戸惑いやすい部分です。会計ソフトは基本的に自動連動しますが、ケースバイケースで、資金収支に連動させる、させない判断が必要な場合もあるため仕組みを理解しないままでは、決算時の整合性チェックでつまずく原因となります。
ポイント4:事業区分・拠点区分・サービス区分という「区分経理」
社会福祉法人の会計では、法人全体だけでなく、事業区分・拠点区分・サービス区分という3層構造の区分経理が求められます。各区分に応じた計算書類の作成が必要となるため、企業会計のように独自の基準で自由に部門を設定する運用には適していません(※06)。
- 事業区分:社会福祉事業・公益事業・収益事業の3区分
- 拠点区分:施設や事業所単位での区分(会計区分の中心)
- サービス区分:拠点内で実施する事業別の細分化
この区分管理により、各施設・事業所の経営状況を明確に把握でき、公費投入の妥当性を外部に説明できる仕組みとなっています。内部管理会計と制度会計が一体化している点が、企業会計との大きな違いです。
ポイント5:注記・附属明細書・財産目録の作成と3表の整合性
社会福祉法人では、貸借対照表・事業活動計算書・資金収支計算書の3つの計算書類に加え、計算書類への注記、附属明細書、財産目録の作成が求められます。作成した計算書類などは、理事会および評議員会の承認手続きを経たうえで、所定の期日までに所轄庁へ提出する必要があります(※07)。
計算書類への注記には、重要な会計方針、基本財産の増減、関連当事者との取引などを記載します。決算実務では、3表の整合性確保が不可欠であり、たとえば事業活動計算書の次期繰越活動増減差額と貸借対照表の同項目が一致することなど、複数のチェックポイントを確認する作業が求められます。
3.社会福祉法人の会計業務を効率化する3つの方法
専門性の高い社会福祉法人会計を継続的かつ正確に運用するためには、業務体制の整備が欠かせません。現場でよく見られる課題と、その解決策を整理します。
会計業務でよくある課題と負担
社会福祉法人の経理現場では、専門知識の属人化と引継ぎ困難が深刻な課題となっています。長年1人で経理を担ってきた担当者が退職する際、マニュアル化が進んでいないために業務移管ができないというご相談が多く寄せられています。
また、統廃合や事業拡大により業務量が増加する一方、社会福祉法人会計に精通した人材の採用は容易ではありません。結果として既存スタッフの残業が常態化し、本来注力すべき経営分析業務にまで手が回っていないのが実状です。
専門知識を持つ人材の確保
日商簿記の有資格者であっても、社会福祉法人会計基準は別途学習が必要であり、即戦力化までに相応の時間を要します。一取引二仕訳や区分経理、特有の勘定科目体系を実務レベルで習得するには、体系的な研修と実務経験の蓄積が不可欠です。
採用市場では社会福祉法人会計の経験者は限定的であり、地方法人ほど確保が難しい傾向があります。教育コストと採用コストの両面から、内製化のみに依存する体制はリスクが高いといえます。
記帳代行サービスへの外注という選択肢
こうした課題に対する有効な選択肢が、社会福祉法人会計に特化した会計事務所への記帳代行の委託です。専門チームによる対応であれば、引継ぎ書がない状況でもヒアリングベースで業務を引き受けられるケースがあります。
記帳代行の委託は、採用・教育・引継ぎの負担を大幅に軽減しながら、経理担当者は分析業務へシフトできる体制を構築できます。
| 選択肢 | メリット | 留意点 |
|---|---|---|
| 内製化(採用・育成) | ノウハウ蓄積・即時対応 | 採用難・教育コスト・属人化 |
| 会計ソフト導入 | 仕訳の自動化 | 基準理解は別途必要 |
| 専門会計事務所への外注 | 専門性・引継ぎ負担軽減 | 事務所選定が重要 |
社会福祉法人の経理体制でお悩みではありませんか?
日本経営グループでは、社会福祉法人会計に特化した記帳代行サービスを全国で提供しています。
引継ぎ書がない状況でも、専門チームがヒアリングから対応いたします。
- 経理担当者の退職でお困りの法人さま
- 属人化を解消したい法人さま
- 本来の経営分析業務に集中したい法人さま
4.社会福祉法人の会計に関するよくある質問
Q. 企業会計の経験があれば、社会福祉法人会計にすぐ対応できますか?
A. 簿記の基礎知識は活かせますが、一取引二仕訳や区分経理、特有の勘定科目など独自のルールが多いため、別途学習が必要です。即戦力化までには相応の期間を要します。
Q. 資金収支計算書とキャッシュフロー計算書の主な違いは何ですか?
A. 現預金の動きだけでなく未収・未払を含む資金の増減を表す点が、企業会計のキャッシュフロー計算書との大きな違いです。決算額と予算額を並べて記載することで予算との対比が可能になっています。
Q. 記帳代行を外注する場合、引継ぎ書類がなくても依頼できますか?
A. 社会福祉法人会計に精通した専門チームであれば、ヒアリングベースで現状を把握し、引継ぎ書がない状態でも業務を引き受けることが可能なケースがあります。
Q. 一取引二仕訳は会計ソフトで自動化できますか?
A. 社会福祉法人会計に対応した専用の会計ソフトであれば、片方の仕訳を入力するともう片方が自動連動する機能を備えているものもあります。ただし、自動化機能を正しく使いこなすには、一取引二仕訳の仕組みそのものを理解しておく必要があります。
まとめ|社会福祉法人の会計は専門性が高く、体制整備が鍵
社会福祉法人の会計と企業会計は、資金収支計算書の作成、事業活動計算書の構成、一取引二仕訳という独自の記帳方法、事業区分・拠点区分・サービス区分の区分経理、注記・附属明細書の作成という5つの観点で大きく異なります。これらは単なる技術的な差異ではなく、公益性と説明責任を担保するための制度設計の違いを反映しています。
経理担当者の退職や事業拡大に伴う業務負担増加に直面している法人にとって、専門性の高い記帳代行サービスの活用は、経営の安定化と分析業務へのシフトを実現する有効な選択肢です。
※01 出典:厚生労働省「社会福祉法人会計基準」(平成28年3月31日厚生労働省令第79号/最終改正:令和5年3月17日厚生労働省令第21号)第一条(趣旨)より
※02 出典:厚生労働省「社会福祉法人会計基準の制定について」の一部改正について(平成28年3月11日 雇児発0311第1号・社援発0311第1号・老発0311第1号/最終改正:令和7年3月14日 雇児発0314第1号・社援発0314第1号・老発0314第1号通知)より
※03 出典:厚生労働省「社会福祉法人会計基準」(平成28年3月31日厚生労働省令第79号/最終改正:令和5年3月17日厚生労働省令第21号)第3章 計算関係書類 第2節 資金収支計算書(第十二条―第十八条)より
※04 出典:厚生労働省「社会福祉法人会計基準」(平成28年3月31日厚生労働省令第79号/最終改正:令和5年3月17日厚生労働省令第21号)第3章 計算関係書類 第3節 事業活動計算書(第十九条―第二十四条)より
※05 出典:厚生労働省「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の取扱いについて」(平成28年3月31日 雇児発0311第15号・社援発0331第39号・老発0331第45号/最終改正:令和3年11月12日 子発1112第1号・社援発1112第3号・老発1112第1号通知)より
※06 出典:厚生労働省「社会福祉法人会計基準」(平成28年3月31日厚生労働省令第79号/最終改正:令和5年3月17日厚生労働省令第21号)第一章 総則 第二条(会計原則) および第三章計算関係書類 第一節(第十条:事業区分および拠点区分)より
※07 出典:厚生労働省「社会福祉法人会計基準」(平成28年3月31日厚生労働省令第79号/最終改正:令和5年3月17日厚生労働省令第21号)第3章 計算書類 第5節 計算書類の注記(第二十九条)、第6節 附属明細書(第三十条)および 第4章 財産目録(第三十一条〜第三十四条)より
社会福祉法人専門の記帳代行なら日本経営グループへ
日本経営グループは、長年にわたる社会福祉法人さまへのご支援実績をもとに、社会福祉法人会計に特化した記帳代行サービスを全国で提供しております。独自の会計基準に精通した専門チームが、貴法人の経理体制を一括してサポートいたします。
引継ぎや人材確保にお悩みの際は、どうぞ安心してご相談ください。
レポートの監修者

門原 郁洋(かどはら いくひろ)
税理士法人日本経営
執行役員
平成10年入社。主に医療施設・介護施設の財務管理業務および運営助言コンサルティング業務に従事し、現在では介護福祉施設における経営診断、経営計画策定支援、実地指導対策などに従事している。各都道府県関連団体が主催するセミナーでも多数講師を務める。「社会福祉法人経営のおける財務分析の手引き」執筆。
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。
-
事業形態
医療・介護
- 種別 レポート

