診療所の経営・相続Q&A「いい人材を確保する」
Q:最低賃金額が改定され、大阪府の最低賃金額がどんどん上昇しています。人件費率が確実に上がっていますし、採用も困難、スタッフがいつ辞めてしまうかという不安感もあります。腹を括るしかないでしょうか。
A:他業種との違いを考えたとき、今のスタッフの働き方にも工夫の余地がありそうです。
賃金を引き上げて、それをどう収益や品質に繋げていくのか
「いい人を採用したい・長く働き続けてほしい」スタッフを雇う時に、だれもが考えることです。しかし、現実には人材不足で採用面接もままならず、診療所の求人も、ここ数年、超売り手市場のような感があります。特に事務員は他業種とも競合し、他の医療機関ではなく、他業種とも競合することになります。
経営者としては頭の痛いところです。賃金を引き上げて、それをどう収益や品質に繋げていくのか。これは、事業者が考えなければならない大きなテーマです。
他業種と比べて、診療所に勤務するということがどういうことなのか
新たな人材の確保も課題ですが、現在雇用しているスタッフに働き続けてもらうことも、困難になってくるかもしれません。なぜならスタッフにとっては、診療所で働かなければならないという理由はないからです。
他業種と比べて、診療所に勤務するということがどういうことなのか、違いを見てみましょう。
1.午前診療・午後診療の間の「中抜け」
いわゆる「中抜け」という働き方について、近隣にお住まいのスタッフであれば、一旦帰宅して家事をしたり、ゆっくり休憩できるというメリットもあります。一方で、もっと無駄なく働いて給与を増やしたいと考える人もいらっしゃいます。
2.午後診療の終わる時間
19時診療終了という診療所の場合、スタッフの帰宅時間は近くになる場合もあるのではないでしょうか。働く人の生活パターンにもよりますが、時給に大きな差がなければ、当然、早く帰宅できる仕事に就きたいとお考えになるでしょう。
3.覚えなければならないこと、求められるスキル
受付業務、レセプト業務、検査など、覚えることが多く、習得にある程度の時間がかかります。
4.少人数の職場である
一般的な診療所は少人数で運営している場合が多く、また女性が多いのも特徴です。少人数の中での人間関係は、こじれてしまうと困難です。古今東西、女性の退職理由の上位には「人間関係」が挙げられています。
5.事業所としての安定感
診療所は先生が元気に診療できることで成り立っています。長く働き続けたい従業員は、経営の安定性を重視するのではないでしょうか。先生ご自身の健康と経営の安定の両立が求められます。
6.他業種よりも身だしなみに清潔感が求められる
髪のカラーリング・ネイル・ピアス・まつげのエクステ・流行のメイクなど、他の職場では許容される範囲でも、診療所勤務ではNGということも多くあります。最近では、かなり明るい髪色のスタッフもお見かけします。人を確保するために身だしなみの許容範囲を拡大するというのは本末転倒です。ルールや基準を明確にして、それを理解できる人材を採用することになります。
いい人材を確保して長く勤めていただける本質
あえてネガティブな目線で列挙しました。しかし、裏を返せば、時給以外にも、まだまだ工夫や改善の余地があるということです。
考えてみれば、「いい人材」とは、医師として先生がこだわっていることを理解できる人材です。
「採用が困難だから処遇を改善する」という外圧は否めません。先生の下で、今も働いてくれているスタッフを大切にして、その方々の働き方を改善していこうという観点からの工夫こそが、いい人材を確保して長く勤めていただける本質だと考えます。
それは、先生一人で考えなければならないことではなく、スタッフと一緒になって取り組んでいくことではないでしょうか。
(2024年04月18日 医療事業部 森蔭咲子)
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