人件費の意味とスタッフの役割|診療所の経営・相続Q&A
Q:近隣にオープンするクリニックが求人広告を出しているのですが、その時給が相当に高く驚いています。他院に対抗するために値上げするのもおかしな話だと思うのですが、妥当な人件費率ということについて、何を基準に考えたらよいでしょうか。
A:統計データや同規模の施設におけるベンチマークデータなどが一つの基準になります。しかし、数字の高い低いだけで判断するのではなく、経営者サイドの先生とスタッフお互いが役割に対して共通の認識を持てていることが大切になります。ライフステージにより賃金の意味・値打ちも変わってきます。
診療スタイルによって、「人員の配置」は大きく変わる
「うちの人件費率はどうでしょうか?」
収益に対して人件費の比率が妥当かどうか、気にされる先生は多くいらっしゃいます。
私は、統計データや同規模の施設におけるベンチマークデータなどを用いて人件費率を説明しているのですが、人件費そのものについては他の一般的な経費とは異なり、単純に高い低いでは比較できないように思います。
1つ目に、介護事業を展開していたり、在宅診療(往診)のために医師を雇用していたりすると、人件費率は当然高くなります。一方、パートスタッフ中心でシフトを上手く回していれば、人件費率は結果的に低くなるでしょう。
このように、人件費率は「人員の配置」によって大きく変わります。そして「人員の配置」は各々の医院がどのような「診療スタイル」を採るかによって、大きく変わってきます。
他の医院と比べて高いか低いかということが重要なのではなく、診察スタイルを実現するために、どれだけの人件費をかけられるかということのほうが重要になってくるわけです。
賃金の意味とは、ライフステージの変化によって変わる
2つ目に、先生にとっての人件費は、スタッフにとっては賃金・生活水準となります。スタッフにとって納得・希望の持てるものになっているかどうかということも、重要になってきます。
N診療所の事例を参考にご紹介します。
ある日、先生から次のような連絡を受けました。「常勤スタッフの半数以上から、別の医院へ転職したいと言われて困っている。賞与や退職金も含めて、当院は賃金が少な過ぎるという意見もある。どう対応すべきか?」。
スタッフがずっと抱えていた不満が一気に爆発したわけですが、何故今になって爆発したのでしょうか。
これまでのデータをみると確かに人件費率は低く推移していました。一方で、残業はほとんどなく有給消化率も高く、時間単価に置き換えると決して見劣りする水準ではありませんでした。
詳しい話をスタッフ確認すると、「子供の進学・親の介護など、今までよりも多くの生活費が必要になった。このままの賃金で働き続けることはできない」ということでした。
このように、人件費(スタッフから見れば賃金)の意味や値打ちは、先生にとってもスタッフにとっても、ライフステージの変化によって変わってくるわけです。
賃金が高い低いの前に、役割に対して共通認識を持てるかどうかが大切
N診療所では、先生とスタッフの感覚にギャップが生まれていました。
単に賃金が高い低いということではなく、そもそもどのような働き方をしてほしいのか、どのような働き方をしたいのかという双方の思いが、ライフステージの変化の中でずれてきたと考えるべきでしょう。
ですので、ただスタッフに給与明細を渡して感謝を伝えるのではなく、賞与支給時などにはスタッフと面談を行い、絶えずお互いの思いをすり合わせする必要があります。
スタッフの希望を踏まえながら、経営サイドとして、賃金に見合った役割を与えることができるのかどうかが大切です。
人件費の本質はそこにあって、賃金が高い低いの前に、役割に対して経営者サイドの先生とスタッフお互いが共通認識を持てるかどうかということのほうが、今後、ますます重要になってくるのではないでしょうか。
(2019年06月11日 医療事業部 チームリーダー 長濱雅和)
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