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診療所の経営・相続Q&A「財産の整理と事業承継」

0001Q:これまで医師として診療所の運営に傾注してきましたが、資産管理や承継については無計画でした。後継者も決まっていません。診療所のフェイドアウトや相続について、どうなるのか漠然とした不安があります。


A:まずは財産の整理から始めてみると、事業承継の本音についても、お互い口にしやすくなるかもしれません。

遺産の話題を持ちかけることの難しさ

相続で揉めたという話を聞くが、うちに限ってそんなことはない。」「将来どうなるかなど、まだ分からない。」このように、相続について、日ごろから積極的に話し合いをされているという方は、多くはないと思います。

息子さんや娘さんにしても、「そんな弱気なことは言わないでほしい。」「自分から言い出すなんて、絶対にできない。したくない。」よほど問題がなければ、わざわざ問題を顕在化させたりはしないものです。

「新認定医療法人制度」や「事業承継税制」など、億単位の相続税や贈与税をゼロにするという制度が創設されても、それでも、後継者から遺産についての話を切り出すのは、難しい面があるのではないでしょうか。

私が担当している診療所での話です。事務長から重い口調で相談を受けました。「院長は、今でこそお元気で患者さんとも対応されていますが、あと10年同じように診察できるかというと、心配です。後継者をどのように考えておられるのか分からないですし、私もこのまま働き続けてよいのか迷っています。」

私は思い切って、院長に尋ねました。ご家族に承継されるのか、M&Aの可能性を検討されるのか、閉院されるのか。時間がかかることなので、早く検討しなければ、選択肢はどんどん少なくなっていきます。

すると院長から、意外な答えが返ってきました。「実はそのことで悩んでいたのです。多くの先生方がそうだと思いますが、私も出口まで明確に考えて開業したわけではありません。息子が跡を継ぎたいと言ってくれたならば、どれほどやりがいがあることか。しかし、息子の気持ちは分かっているつもりです。」

デリケートな話題に立ち入ってしまったことに、私は大変恐縮しました。しかし院長は怒ることなく、本音をお話しくださったのです。

財産の棚卸しを進めていくと、院長自身も存在を忘れていた通帳が…

私は思案の末、事業承継は横に置いておいて、相続や遺産分割について整理を進めました。財産の棚卸しを進めていくと、院長自身も存在を忘れていた通帳が出てきたり、相続税の納税資金に不安があったり、老朽化した建物がそのままになっていたり、不必要な保険に加入していたり…解決しておかなければならない課題が、いくつもあることが分かりました。そこで、それらの課題をまずクリアするところから、始めることにしたのです。

事業をされていると、診療所をどうするかということに意識が行き勝ちです。そこが最も重要で、承継の方法が決まらなければ、ほかが決まらないのは確かです。しかし、事業承継については、最後まで答えが出せないこともあります。たとえ答えが出せないとしても、財産についての課題は、比較的はっきりしているものです。順序が逆だとしても、まずは財産の整理から始めてみると、意外にお互いの本音を口にできるきっかけになるかもしれません。

(2018年6月4日 医療事業部 課長代理 野口康一郎)

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  • 事業形態 医療・介護
  • 種別 レポート

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