お役立ち情報

診療所の経営・相続Q&A「事業拡大の決断」

0001Q:開業して10年、次のステップに挑戦すべきかどうか迷っています。他の先生方はどのような思いで、事業拡大の決断をされているのでしょうか。


A:新たな事業に踏み切るためには、まず事業計画が必要です。事業計画といえば、売上や経費、資金などの財務面での計画や、勤務医やスタッフの採用・配置転換など人員計画がイメージされますが、それ以上に重要になるのが、「組織のマネジメント」です。

「事業計画」と「組織のマネジメント」

ご開業されて順調に売上が伸びてくると、次のステージとして事業を拡大する計画のご相談を受けることがあります。ご相談の内容として、例えば分院開設や診療所の移転による規模の拡大、介護事業への展開などが挙げられます。「目指したい医療や介護を実現するため」、「環境の変化に対応するため」、「将来の事業承継のため」……理由は様々です。

新たな事業に踏み切るためには、まず事業計画が必要です。事業計画といえば、売上や経費、資金などの財務面での計画や、勤務医やスタッフの採用・配置転換など人員計画がイメージされますが、それ以上に重要になるのが、「組織のマネジメント」だと思います。事業を拡大すれば、自分の目が隅々まで届くということが難しくなります。これまでのように、先生が診察をしながら診療所の状況を把握し指示するという運営スタイルは、物理的に不可能になるでしょう。勤務医やスタッフに、経営の一部を委譲していかなくてはなりません。先生とスタッフが一体となって、組織として事業を運営していける体制へと移行していく必要があります。

分かってはいても、実際に事業を拡大してみると、この「組織としての運営」が思うようにいかず、大きな壁になるケースが多いように思います。先生であればしないようなことを、勤務医やスタッフがしてしまうこともあるでしょう。それを防ぐために手立てを打つと、今度はそれだけに偏った極端な行動をするスタッフが出てくることがあります。院長がいるときにもいないときにも、先生の意図を理解して裏表なく働いてくれるスタッフがいるかどうか。闇雲に信じればいいということではありませんが、信じるからこそ信頼に応えようというスタッフが出てくるのも事実です。

しかしそうは言っても、診察の全責任を背負うのは先生です。あるいは、どのように信頼するスタッフであったとしても、生涯雇い続ける約束はできません。それは先生にとって葛藤であると同時に、スタッフにとっても葛藤になっているのではないでしょうか。

揺るがない「理念とビジョン」は、患者さんにもスタッフにも伝わる

事業を拡大するということは、そのような葛藤に少しでも挑戦するということではないかと、私は思います。ご家族を養うためだけの診療所であれば、いまのままでいいと思います。そうではないという思いがあるので、事業拡大をすべきか迷われているのではないでしょうか。言い換えれば、経営者としての覚悟と決意を持たれるということだと思います。落ちているゴミ一つまで、先生のものであった診療所が、先生一人のものではなくなり、先生の知らないところでスタッフ一人ひとりが、先生の分身として患者さんや診療所のためを思って働くようになる。一人ひとりが自分の仕事に責任を持ち、将来は保障されたものではないとしても、努力すれば少しでも報いられるような組織にしていく。事業を拡大される先生方の多くが、単に事業意欲だけで拡大されているのではないことを、これまで何度も、間近に拝見してきました。それを、理念と呼んだりビジョンと呼んだりするのだと思います。

事業を拡大するということは、覚悟と決意。言い換えれば、理念とビジョン。本気の思いは、患者さんにもスタッフにも必ずや伝わり、そこに共感するメンバーが集まってくるのだと思います。

(2017年11月20日 医療事業部 税理士 緒方聡)

執筆者へのお問い合わせはこちらから

本稿はご回答時点における一般的な内容を分かりやすく解説したものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

  • 事業形態 医療・介護
  • 種別 レポート

関連する事例

贈与により娘名義の口座でも、妻の財産とされるのか?

  • 医療・介護

関連する事例一覧を見る

関連するお役立ち情報

診療所の経営・相続Q&A「いい人材を確保する」

  • 医療・介護

関連するお役立ち情報一覧を見る