診療所の経営・相続Q&A「リスクと意思決定」

0001Q:待合室が手狭で患者数も頭打ちになっています。近隣のテナントに空きができたそうですが、移転するリスクもあります。何を根拠に意思決定したらよいものでしょうか。


 

A:移転するリスクは、「リスク」なのか「不確実性」なのか。「不確実」な事柄への対処は困難ですが、「リスク」に対しては、ある程度対処が可能なはずでは。

 

移転するリスクは、「リスク」なのか「不確実性」なのか

私たちが「リスク」と言うとき、一般的には「損をする可能性」「失敗する可能性」といった、危険性、ネガティブなイメージがあるものです。しかし、株式投資等に詳しい先生方は、投資におけるリスクとは「損または得をする不確実性」という意味で使用されているとご存知だと思います。また、別の議論では、「リスクとは(不確実だが)発生確率が分かっているもの」、「不確実性とは、発生確率が分からないもの」という議論もあるようです。

学問的な定義は別として、私が常々感じることは、「リスクを避ける」という場合、実際にはそれは「リスク」ではなくて、「不確実性」ではないか、ということです。ご質問のように、移転することによって、移転コストがどれくらいかかるのか、診察スタイルや来院患者数への影響がどれくらいあるのか全く分からない場合、これは「不確実」なので、移転するという意思決定はまずできないでしょう。

しかし、それらをきちんとシミュレーションして、一日の患者数の最低ラインと目標ラインを数値化し、その範囲内のどこに落ち着くかはやってみなければ分からない、という段階になると、それは「不確実」ではなく、「リスク」と呼べるのではないでしょうか。

 

リスクに対して、覚悟と勇気で意思決定し続けるのは大変

「不確実」な事柄への対処は困難ですが、「リスク」はある程度対処が可能なはずです。例えば、今の来院患者数と比較して全く増患しなかった場合、何ヶ月までなら堪えうる財務的な基盤があるかどうか、どこまでの損失であれば許容範囲であるのか、などです。

最後は結局決断しなければならないわけですが、その意思決定を後押しするのは、開業されたときの信念であったり、医師としての使命であったり、支えてくれる仲間・チームの存在であったりするかもしれません。

ただ、診療所経営においては、このように意思決定を迫られる重要な局面が、いくつかあります。毎回毎回、リスクに対して、最後は覚悟と勇気で意思決定をするのは大変なことです。

 

リスクを予算化し、「新しいことを開発するための予算」にする

ですので、私がお勧めしたいのは、「リスクを予算化する」ということです。今期の利益のうち、いくらまでをリスクの引当金として計上するのか。毎年200万ずつ引き当てたとしても、10年経てば2,000万円の予算になります。リスクとは、損をするかもしれないし、利益になるかもしれない意思決定です。そのように考えてみると、リスクへの引き当てとは、「新しいことを開発するための予算」と言うこともできるのかもしれません。

事業を見事に切り盛りされている先生方は、感覚的にそれを実行されているのだと思います。私たちも、不確実ではなくリスクとして、ご決断の根拠をご一緒に考えると共に、意思決定のハードルを下げるための日頃の引き当てをご一緒に考えられるような、そういう仕事の仕方をしていきたいと思います。

(2018年1月10日 医療事業部 副部長 中塚 敬) 

 

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本稿はご回答時点における一般的な内容を分かりやすく解説したものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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